北京五輪では、2018年の平昌五輪のメダル13個(金4、銀5、銅4)以上を狙う日本代表。その目標を現実のものとするためには、選手の能力だけではなく世界に誇る「日本の技術」が欠かせない。小林陵侑が今大会における日本人選手の金メダル1号を獲得したスキージャンプやこれからメダルラッシュが期待されるスピードスケートは、日の丸メーカーが選手をサポートしてきた。スポーツメーカー関係者がこう語る。
「冬季五輪はすべてがギアのスポーツ。夏季五輪も厚底シューズや高速水着が話題になりましたが、冬季は夏季よりその要素が強くなります。用具の性能が競技結果に大きく影響するため、アスリートを支える用具職人たちは、繊細な作業で微調整を繰り返しているのです。
ウェアも重要な用具のひとつ。例えばスピードスケートはいかに空気抵抗を抑えられるかがタイムに影響するし、浮揚力を利用するスキージャンプはスーツの大きさが飛距離に大きく影響する。そのためにレギュレーションが厳しく、やはり職人技での調整が必要になります」
選手と二人三脚でメダル獲得を狙う日本企業の地道な努力を紹介していこう。
冬季五輪出場選手に用具を提供するメーカーの中でも特に目立つのがミズノだ。五輪3連覇が期待される羽生結弦らのフィギュアスケートをはじめ、スピードスケート、ショートトラック、スキージャンプ、ノルディック複合、クロスカントリー、カーリングの7競技をサポートする。冬季五輪の種目はマイナースポーツが多いため、競技人口が少なく市場規模も小さくなる。それを長年にわたって支えてきたのがミズノなのだ。
小林陵侑のノーマルヒルの金メダルで幕を開け、大会後半に向けてはラージヒルや団体でメダル獲得を狙うスキージャンプも、選手たちが着用するジャンプスーツの開発に工夫が重ねられた。担当する尾形優也氏(24)はミズノ入社2年目の元ノルディック複合の選手。入社直後の昨シーズンからW杯で海外を転戦する選手に同行し、選手の体型に合わせてスーツの調整を行なってきた。
「ジャンプスーツのルールはとても細かくシビアで、違反となれば即失格となる。そのルールを熟知し、選手の体型に合わせながらも不利にならないように“攻める気持ち”でスーツを調整しています。元選手だからこそ持ち得る感覚が活かせればと思っています」(尾形氏)
女子スピードスケートのエースで複数メダル獲得が期待される高木美帆や小平奈緒らが着用するスーツにも開発に至る数々の工夫があった。ミズノのコーポレートコミュニケーション室の広報担当者がこう明かす。
「前回の五輪直後に開発を始め、約3年半かけて空気抵抗を約3%抑えられるレーシングスーツを完成させました。今回から、スポーツ庁の委託事業として日本スポーツ振興センターにも開発に加わってもらいました。
競技場で想定される風を再現した風洞実験を重ね、その実験で最も空気抵抗が小さいとされた生地でも、選手が実際に着用するとフィーリングが合わず、さらに実寸大人形模型による実験を繰り返すことが必要でした。実験で出た数値と選手のフィーリングの両方が良いものにたどり着くのに多くの時間を要しました」