1月29日・30日に第三局を迎えた第71期ALSOK杯王将戦。挑戦者の藤井聡太竜王(19)とタイトル防衛を目指す渡辺明名人(37)が鎬を削る。近年、棋士が対局中に食べる「将棋めし」がファンの注目を集めているが、第三局の2日目は2人とも与一和牛のビーフカレーを選んだ。ただ、渡辺名人は「サラダ抜きの大盛り」を注文。“ちょっと食べすぎで眠くなるのでは?”と思えてしまう。
そんな疑問に「渡辺名人のチョイスは理に適っている」とするのは、管理栄養士でトップアスリートの栄養スタッフを務める川端理香氏だ。
「脳を活性化させるのに必要な栄養素である糖質の多いカレーと、食物繊維の多いサラダを組み合わせて食べると、血糖値の上がり方が緩やかになります。ダイエット中などであればこの食べ方は適切ですが、対局中のように脳に素早くエネルギーが必要な場合はサラダを抜いて正解です。身体全体がエネルギーを吸収できるので、疲労回復効果も期待できます。
お二人の他の日の食事を見ると、ご飯と一緒にうなぎやトンカツなどを食べるケースも目立ちます。この2つに多く含まれるビタミンB1は、糖質を燃やしてエネルギーに変えるのに必要な栄養素で、合理的と言えます」
とはいえ、午後にはおやつも頼むのだから、食べすぎではないのか。
「棋士は対局を終えると体重が2~3キロ減少する、という話も聞きます。これはアスリートに置き換えると、プロのサッカー選手が炎天下の中、水分をあまり摂取せずに2時間ほど練習した場合と同程度の体重の減り方です。対局はそれくらい過酷な戦いと言えるでしょう」(川端氏)
身体を動かしているわけではないのに体重が減る理由についてこう話す。
「過度な集中によって呼吸数が上がることや、緊張からくるストレスによってエネルギーが消費されていると考えられます。
寒い時は平熱を保つために身体は熱を作り出そうとし、代謝が上がります。それと同じように将棋に集中できる身体を維持するために、エネルギーを使っているのではないか」(川端氏)
第三局を制した藤井竜王は、タイトル獲得に王手をかけた。大一番の次局では、指し手とともに箸の進み具合にも注目だ。
※週刊ポスト2022年2月18・25日号