2月11日・12日に第4局を迎える第71期ALSOK杯王将戦。挑戦者の藤井聡太竜王(王位、叡王、棋聖、19)はここまでのすべての対局を制し、王将位奪取に王手をかけた。このままストレート勝ちで史上最年少で五冠誕生となるのか、それとも渡辺明王将(名人、棋王、37)が防衛に向けて反撃の狼煙をあげるのか。
これまで、王将戦の7番勝負で3連敗からの4連勝という逆転劇が起きたことはない。名人戦、竜王戦、王将戦、王位戦という7番勝負のタイトル戦を見渡しても「3連敗からの4連勝」は過去に2回実現したのみ。ただし、そのうちの1回が、2008年の第21期竜王位戦で、大逆転での防衛を果たしたのは誰あろう渡辺王将その人である。
2008年の竜王戦では、羽生善治名人(当時)に0勝3敗と追い込まれた渡辺竜王(当時)が4連勝で逆転。5期連続竜王となり「永世竜王」の資格を手にした。この時は、どちらが勝っても永世竜王(連続5期ないし通算7期獲得)の資格を得るという史上初の大一番だったうえに、そのドラマチックな展開から、ファンの間でも“神回”と呼ばれる名勝負として語り継がれている。羽生名人が38歳で、渡辺竜王が24歳の時だった。
当時、史上初の七冠を達成した「天才棋士」を相手に、どうやって「3連敗から4連勝」を実現できたのか。将棋ライターの松本博文氏はこう話す。
「当時の竜王戦で渡辺竜王(当時)が3連敗から4連勝できたのは、第4局で大逆転勝ちしたのがきっかけでした。これは歴史的な名局で、第4局も羽生名人(当時)が優位に立っていたのですが、追い詰められた渡辺竜王の玉が終盤で打ち歩詰め(持ち駒の歩を王将の頭に打って詰ませることが反則となる)でしのぎ、逆転勝利を収めました。これで流れが変わったのか、渡辺竜王が4連勝をしました。3連敗から4連勝というケースは過去に2回しかないですが、一局の大逆転で流れが変わることはたしかにあるのです」
今回、タイトル戦の番勝負ではとりわけ無類の強さを発揮する藤井竜王が相手だけに、ここからの挽回は厳しいと見る向きが大勢だが、渡辺王将は14年前も「羽生善治相手に4連勝」という離れ業をやってのけたのである。今回の王将戦でも「流れが変わる」可能性のあった局面も見られたという。
「藤井竜王の3連勝で王手となった第3局ですが、途中までは渡辺王将がやや優勢でした。勝負の分かれ目は終盤に入ったあたり。そこで形勢が逆転した。96手目に渡辺王将が7三角を自玉の隣に埋めた。その手が結果的に好手ではなくて、攻守が逆転してしまった。