日本の新聞に、何が起きているのか──。新聞の総発行部数はコロナ禍の2年間で500万部近く落ち込み、広告収入は激減、各社はネットに活路を求めてサイトが乱立し、記者たちはネット配信用の原稿と自分のSNSで名前を売ることを求められ、紙面も大きく変わった。
新聞の変化を象徴的に示したのが今年の元日紙面だ。朝日は「未来予想図 ともに歩もう」という見出しの企画もの、読売は「米高速炉計画 日本参加へ」、毎日は「露、ヤフコメ改ざん転載」を1面トップで報じた。
大手紙のベテラン社会部記者がいう。
「今年元日の紙面を見て、新聞はもう変わってしまったと思った。とくに朝日。もともと元日のトップ記事は新聞記者の誰もが狙うスクープが載るもの。特捜部ネタや政治ネタなど、多少強引でもその1年を予感させるような特大ネタを深謀遠慮を重ねながら仕込む。大晦日の夜10時に入稿するが、他紙に後追いされないように早刷りには載せずに最終版だけに出すかっこよさを記者なら誰もが憧れてきた。それが、今年の朝日はドリカムの吉田美和のインタビューがトップでしたからね」
歴史に残る元日スクープといえば、読売が1995年に報じた、オウム真理教の宗教施設がある山梨県上九一色村でサリン残留物が検出されたという特報が有名だが、最近では、朝日が2019年に「昭和天皇の直筆原稿見つかる」とスクープするなど各紙とも元日のトップ記事には力を入れてきた。しかし、今年の元日紙面で話題になったのは、日刊スポーツの「深田恭子が年内にも結婚へ」という“芸能スクープ”くらいだ。
その理由の一つが、紙面よりネット配信重視という編集姿勢の変化だ。大手紙の第一線記者が言う。
「『速報を出せ』という指示は年々強くなっています。従来は朝刊の記事を日中にネット配信という順序だったが、いまはとにかくネットが先。新聞の部数が年々減るなか、各社ともものすごくネット志向を強め、ネットの有料会員を増やすために速報性を重視する方針になっている。だからわれわれ記者は会見場にパソコンを持ち込んでその場で原稿を書いて送るし、次の日にこんな発表があると事前にわかっている場合、予定稿を用意して会見が始まった段階ですぐネットニュースに流すのがルーティンになった。
ドラマの『新聞記者』のような調査報道は時間をかけてじっくり取材したうえで記事にする。取材方法のスピード感が正反対で、あんな調査報道はなかなか難しくなった」