睡眠中の歯ぎしりや食いしばりは、健康に関する危険信号だ。歯やあごにダメージを与えるだけでなく、片頭痛、肩こりなどの原因になることもあるという。そんな“悪い歯ぎしり”が引き起こすトラブルで、特に恐ろしいのが歯周病だ。
歯ぎしりや食いしばりで歯に余計な力が加わり、気づかないうちに少しずつ欠けたり割れたりするほか、歯の根元には、虫歯でもないのにくさびを打ち込んだようなへこみができたり、歯科治療でのつめ物が取れたりして、虫歯や知覚過敏などの一因にもなる。歯周病の原因にはさまざまなものがあるが、歯ぎしりも歯周病の要因の1つだ。
事実、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の報告によれば、歯ぎしりや食いしばりのクセが強い人は、歯周病の進行リスクが4.9倍にもなるという。幸町歯科口腔外科医院院長の宮本日出さんが説明する。
「歯周病は、歯を支える骨と歯茎が破壊されていく病気で、やせてブヨブヨになった歯茎に隙間ができます。そうしてグラグラした歯をさらに食いしばったり、歯ぎしりしたりすれば、隙間はさらに広がっていき、歯周病菌が侵入して増え続ける悪循環に陥ります」
増えた歯周病菌は、歯周病によって炎症を起こした歯茎から血液中に入り込む。すると、菌が血管壁を傷つけて血栓の原因になり、ある日突然、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす可能性もある。
「歯周病で歯の数が減ることも問題です。歯の数が少ない人は、やわらかいものを多く食べるようになる傾向があり、それによって全身のたんぱく質量が減り、筋力が低下しやすい。
また、歯の数が減ると社交性がなくなり、躁うつや認知症になりやすく、健康寿命が短いこともわかっています。
歯周病は、それ自体がメタボリックシンドロームの初期段階です。さらに、アメリカ歯周病学会の発表では、動脈硬化や虚血性心疾患、高血圧のほか、糖尿病、腎疾患、がん、リウマチ、感染症など、100以上の病気の発症・進行に影響するといわれているのです」(宮本さん)
眠っている間の歯ぎしりや、日中の無意識の食いしばりが、知らず知らずの間に死の危険を招いていたのだ。