2月14日、冬季五輪開催中の中国・北京で、羽生結弦(27才)の単独記者会見が行われた。会見が始まる前から、会場の前には大行列ができていた。日本人だけではない。世界中の記者が、彼の声に耳を傾けようと集まった。
「前日にNHKが突然、会見を行うことを速報として伝えたことで、『引退発表会見』と思った関係者も少なくなかった。慌てたスケート連盟関係者が、『コロナ禍では個別対応が難しいので会見形式にした。羽生選手の発表会見ではない』と念を押すドタバタぶりでした」(現地で取材した記者)
与えられた会見時間は30分。赤い日本代表ジャージ姿で現れた羽生は、まず一礼。礼儀正しく笑顔を交えて、周囲の人への謝辞を繰り返し、そしていつも以上に「羽生結弦」を見せつけた──。
「質問の前に、ぼくから話させていただきたいことを先にお話しさせていただきます」
会見冒頭、さっと手を挙げて羽生は語り始めた。あくまで殺到する取材要請に対応するための記者会見だと前置きして、「引退会見」の“臆測”をさりげなく否定した。マスク越しにもわかる笑顔で話し始めると、緊張していた会見場の空気がほんのりと和らいだ。
2月8日のショートプログラムでは最初の4回転サルコーを跳ぼうとした際、エッジがリンクに空いた穴にはまってしまい、ジャンプが抜けて8位と出遅れた。2日後のフリーでは果敢に4回転半に挑んだが、転倒して惜しくも4位に終わった。全身全霊をかけて臨んだフリー演技が終了して数日間、どんな心境だったかという最初の質問には、「いろんなことを考えた」とし、こう言葉を続けた。
「やっぱりまだ足首がちょっと痛いというのもあって、今日もあまり練習でジャンプをやってはいけないと思ってはいたんですけど。痛み止めものんでますけど、かなり強いものを、許容量以上に」
その後の質疑応答では、「これを言うことが正しいのかわからないです……」と前置きした上で、フリー前日の練習で4回転半を跳んだ際、右足を捻挫し、本番直前に痛み止めを打って強行出場したことを微笑みながら明かした。前出の現地で取材した記者が話す。
「会見では『普通の試合なら完全に棄権していた』と語っていましたが、確かにフリー当日の公式練習では明らかに様子を見ながら滑っていました。練習では自分の曲の順番も待たずにリンクを降り、関係者はよほどのことだなと思っていた。
フリーの演技直後に足の状況を聞かれた羽生選手が『勝ったなら言ってもいいかなと思っていたけど……』とはぐらかすように言ったのは、ケガを成績の言い訳にしたくなかったからでしょう。それにしてもあの状況で出場して4位に入るとは驚異の精神力です」