臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、北京冬季五輪後、会見を開いた羽生結弦選手の“視線”について。
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現役続行か、それとも五輪はこれで最後なのか? 誰もが聞きたかっただろうその答えは「また滑ってみたいなって気持ちはもちろんあります」というものだった。2月14日、北京冬季五輪のフィギュアスケート男子シングルに出場した羽生結弦選手が現地で会見を開き、挑戦した4回転半や捻挫していたという足首の具合、今後に向けた心境などについて語った。
記者会見を開くと報じられた時は、メディアもファンもざわついたが、取材の申し込みがあまりにも多く、それに対応するため特別に設定されたのだという。そのためか、会見冒頭、羽生選手は席に着くとみずから左手をあげ、「先に僕からお話しさせていただきます」と話し始めた。
30分程だったが、羽生選手のこんなにも肩の力が抜けた会見を見たのは、久方ぶりの気がした。シーズンが始まれば抱負を述べ、試合の度にインタビューを受け、大会で勝利するごとに会見に出席してきたが、凛とした佇まいで口調は柔らかく言葉使いは丁寧でも、いつも肩に力が入っているような、神経が研ぎ澄まされているような緊張感を感じた。絶えず次の挑戦へと向かっていたからだろう。
今回の会見で気になったのは、羽生選手の視線だ。羽生選手はこれまでも、自分が経験したこと、考え、感情、思いについて話す時、まっすぐ前や質問者を見て答えることが多かった。細かく視線が揺れるのは、ピリピリしたりイライラしたり、迷いがあるのだろうと思われる時だ。今回ほど視線の動きがはっきり見えた会見は少ないように思う。心の内にいる自分と対話するような時、視線を下に向けたり、上下させ、考えをめぐらす時は上を見ながら左右に視線を動かす仕草が印象的だったように思う。