母から娘へバトンをつなぐファミリーストーリー。高評価のまま推移しているだけにヒロインを引き継ぐ重圧も相当なものだろう。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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前代未聞の不祥事が続く北京オリンピック。失格にドーピング問題と大荒れで人々の関心はそちらへと向きがちですが、ドラマに目を転じればいよいよ3人目のヒロインが登場! NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』では2月10日からひなた役の川栄李奈さんが姿を現しました。今回の朝ドラは史上初「100年三代に亘る」物語。上白石萌音、深津絵里と二人のヒロインがつないできたバトンが、とうとう最終走者へと手渡されたのです。
これまで約3ヶ月間、安子を演じた白石さんとるい役の深津さん、2人のずば抜けた演技力が光った。そして舞台やラジオ、活動写真や歌謡曲なども活用した飽きさせない演出に、優れた脚本が相まって、視聴者の心をがっちり掴んできた。それだけに、ここで登場するニューヒロインがすうっとドラマ世界に馴染むのかどうか……ひなたを演じる川栄さんはドラマや映画で芝居の上手さを見せてきましたが、AKB48出身、演劇畑で育った人ではないこともあって他の出演者とどう溶け合うのか正直、ちょっと心配でもありました。
しかし蓋を開けてみると……18才の娘・ひなたをそつなくこなしている。回転焼「大月」の雰囲気にもふっと溶け込んだ。数話終ったらもう「るいの娘・ひなた」にしか見えない。それくらい川栄さんの「芝居勘」は鋭い。キャスティングした制作陣の慧眼を讃えたい。
川栄さんは、自分がどういう立ち位置で芝居をすればよいかがわかっています。最も注目すべき点は、安子ともるいとも違う、ひなたのカラっとした現代っ子風個性を明快に表現できているところ。ぐうたらしていて優等生でなく平凡。人生の目標を設定できずモヤモヤしているあたりもリアル。川栄さんの実年齢は27才だそうですが、スッピン姿で18才の青春期を演じ、母や父への甘えぶりもまた絶妙です。
ひなたの唯一の趣味といえば時代劇で「ミス条映コンテスト」に応募するが落選。しかし、目を付けられて映画村でバイトをすることに。ひなたを見いだした大部屋役者・虚無蔵を演じる松重豊さんも加わって、残すところ約1ヶ月半。
今回の朝ドラは、ヒロインを支える脇の役者たちが実にいい味を出しています。例えば、お茶のお師匠さんにベリーこと市川実日子さん。「畳のヘリを踏んではいけません!」「手が遊んでる!」とビシビシ。師匠ぶりが板に付いていて着物姿も似合って素敵です。あるいは、ケチな荒物屋・赤螺吉兵衛役と息子の吉右衛門、二役を演じる堀部圭亮さんもクセになるような味わい。もはやちょっと画面に姿を現すだけで「くすっ」と視聴者の笑いが出るほど。脇のキャラクター造形がしっかりしていてそれぞれがファンに愛される豊かなドラマ世界。そしてカムカムはいよいよクライマックスへと向かっていく……。