羽生結弦への正当な論評すら、タブーなのか──。北京五輪のフィギュアスケート男子シングルで、前人未到の五輪3連覇を目指した羽生結弦は4位に終わった。2月8日のショートプログラムで羽生は冒頭の4回転サルコーが抜けて、1回転サルコーになり8位と出遅れ、10日のフリーで巻き返したが、惜しくも4位でメダルには届かなかった。
ショートプログラムが行われた翌9日のスポーツ紙では、羽生の失敗を「不運と言うほかない」(日刊スポーツ)、「アクシンデントに見舞われた」(サンケイスポーツ)というように表現していた。メディア関係者は「たしかに不運なんだと思います」と前置きした上で語る。
「ご承知の通り、ネット全盛時代になってスポーツ紙は売上に苦戦しています。アイドル的な人気を誇る羽生結弦を大きく取り上げると、普段買わない熱狂的な女性ファンが購買してくれる。だから、“ユヅ様頼み”で1面と裏1面を使った見開きなど数ページにわたって特集を組むこともよくある。だから、羽生にあまりマイナスなことは書きたくないという意図もあるように思います。そうなると、本来スポーツ紙の読みどころでもある“論評”からかけ離れてしまう。そんな弱点も生まれています」(以下同)
フィギュアスケート経験者の元選手たちもコラムで「試合中に穴にはまることは、まれです」(小塚崇彦、日刊スポーツ)、「本当に不運だったとしか言いようがありません」(無良崇人、スポーツ報知)、「不運としか言いようがない」(佐野稔、サンケイスポーツ)と書いている。スポーツ紙だけでなく、一般紙でも「不運に見舞われた。(中略)めったに起きないアクシデントだ」(荒川静香、読売新聞)、「羽生は不運と言わざるを得ない」(本田武史、産経新聞)など押し並べて同情的だった。
「これだけ元選手たちが口を揃えるのも珍しいですよね。それくらい不運なんだと思います。ただ、演技終了後、はまった穴を見に行ったことについて触れる人がいてもおかしくはないと思いました」
「五輪2連覇の王者にはふさわしくない」
2月10日のサンケイスポーツ裏1面『甘口辛口』という小さなコラムで、編集委員がこう書いている。
〈フィギュアスケートの五輪男子代表にもなった斯界の大先輩が羽生結弦にあえて苦言を呈した。「滑り終えたあと、はまった穴をわざわざ見に行ったのは“ここだよ”ともいいたげで、五輪2連覇の王者にはふさわしくないし見たくはないシーンだった。みんな同じ条件で滑っているんだから…」〉
羽生結弦に対して、称賛記事や応援記事ばかりの新聞の中で、珍しく苦言を呈した。