2020年から続く新型コロナウイルスだけでなく、人類は感染症とともに生きてゆかねばならない。白鴎大学教授の岡田晴恵氏が、災害時に心配される感染症の筆頭「破傷風」について解説する。
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感染症対策の解説でお馴染みの岡田晴恵です。
今週は災害時に心配される感染症の筆頭格とも言える「破傷風」をご説明します。ちょうどポスト読者層の世代の方々には、他人事ではない病気です。
さらに今、首都直下型地震や南海トラフ地震の危険性も叫ばれていますから、ぜひ知っておきたい感染症です。
破傷風は世界中の土壌にいる破傷風菌の感染によって起こります。泥の中でケガをした傷や火傷の傷口、また農作業や庭いじりなどによる小さな切り傷などから、破傷風菌の種のような存在の芽胞が体内に侵入します。すると破傷風菌がそこで発芽、さらに増殖して毒素を産生します。この神経毒素が傷の周囲の運動神経から神経細胞に取り込まれ、神経機能を侵しながら、脊髄・脳神経の運動神経中枢に向かって移行していきます。
そして、治療が遅れれば、全身の筋肉に痙攣性の強い硬直が起こり、その結果、呼吸困難になりますが、意識は清明なので本人の苦痛は非常に大きく、さまざまな治療法がなされるようになった現在でも、致死率は1割から2割にも上ります。
日本では年間数十人の破傷風患者が発生していますが、そのほとんどが中高年齢層です。
1968年から破傷風トキソイドワクチンがジフテリア・百日咳、破傷風3種混合ワクチンとして定期接種となりましたが、それ以前に生まれた人は、大きなケガをして治療を受けたなどの特別な理由がない限りは、破傷風トキソイドワクチンを受けていません。
東日本大震災の後の被災地では、10例の破傷風感染者が報告されました。津波に流されたり、転倒したり、避難のときに受けた傷から破傷風菌に感染したのですが、いずれも50代以上の年齢の方でした。
災害時には受傷する危険性も高い上に、医療どころか傷を洗い流すためのきれいな水さえないという状況に陥ります。破傷風菌の芽胞が存在する泥などの不純物や病原体を洗い去ることができないままに時間が経過してしまうと破傷風菌の感染が成立し、さらに治療が遅れると発症のリスクが高まってしまいます。