「努力って報われないなあって思いました」。北京五輪のフィギュアスケート男子シングルで、史上初の3大会金メダルを目指した羽生結弦は惜しくも4位に終わった。その試合後に述べた言葉である。
2月10日、フリーの演技終了後のインタビューで羽生は「いや、もう一生懸命、頑張りました。正直、これ以上ないくらい頑張ったと思います。報われない努力だったかもしれないですけど。でも一生懸命、頑張りました」と話した。
その後、テレビ朝日の五輪キャスターを務める松岡修造氏と対面。4回転半ジャンプについて、インタビューアーの松岡氏が「ありがとうって言いたいんですよ。お礼したい。だって、誰もトライしたことがないものにトライし続けましたよ」と感謝を述べた。すると、羽生は「ちょっと待って……ダメだ」と背を向け、「テレビの前で泣くの嫌なんだけどな。修造さんと長いからな……。悔しい」と呟いて涙を拭った。
羽生が前に向き直し、松岡氏に「苦しさの中にこのオリンピックで何を見たんですか?」と聞かれると、「そうですねえ……努力って報われないなあって思いました。僕はオリンピックで金メダルを取るために、そして4回転半を決めきるための努力を、正しい努力をしてこれたと思ってます」と答えた。スポーツライターが話す。
「何を言っても、羽生選手は話題になる。それだけ注目されるのは本当に凄いこと。一挙手一投足が取り上げられるのはスターの証です。実際、前人未到の4回転半への挑戦は素晴らしかった。ただ一方で、世界を代表する選手の口から『努力って報われない』という発言を聞き、時代の変化を感じた人もいたと思います」(以下同)
羽生は今大会でメダルを逃したが、テレビやスポーツ紙などでもその挑戦を称える論調が目立った。
「羽生選手はアイドル的人気がある。熱狂的なファンの中には自分の意に沿わない論調を見たり聞いたりすれば、猛抗議する人もいる。それは愛ゆえの行動だとは思います。しかし、誹謗中傷は別として、個人の意見やまっとうな論評にも過剰な反発が来るのであれば、ファン以外の人はその世界に関わらない方がいいと思ってしまう。それはフィギュア界にとっても、ファンの裾野を広げるうえでマイナスとなるのではないでしょうか」
競技が違うとはいえ、“ミスタープロ野球”の異名を取って絶大な人気を誇った長嶋茂雄や“世界のホームラン王”と呼ばれた通算868本塁打を放った王貞治でさえ、選手時代に絶不調に陥ったり、監督時代に勝てなかったりすると、マスコミに叩かれ、球場ではファンから強烈なヤジを浴びていた。