習近平国家主席の強権体制による中国の膨張に、世界が固唾を呑んでいる。北京五輪を終えた中国経済はどこかで破裂するのではないか──。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と中国問題を専門とする拓殖大学教授の富坂聰氏が超大国の行方を読み解いた。【前後編の前編】
手嶋:中国経済を語るうえでも北京の冬季五輪は象徴的です。競技場は人工雪、つまりフェイクの雪が地上を覆っている。
中国経済もまた表向きは欧米と同じルールで営んでいるように映るが、随所にフェイクな面が見受けられる。日米欧の各国はそれと知りながら中国との取引から利益を引き出してきた。だが、その雪も手に取ってみるとザラザラとしている。我々の貿易相手が、果たして本物なのか、フェイクなのか、それを吟味する岐路に立たされているのではないか。
富坂:2008年の北京五輪と比べると、国威発揚で欧米への対抗心がむき出しだったのが、今回は開会式の演者の大半が俳優ではなく一般人で、ドローンを使うような派手な演出もなかった。ゴリゴリと前に進むのはもう難しいという、中国がこれから向かわなくてはならない方向を表わしていた。
手嶋:2010年までは中国と経済的な関係を強めていけば中国もやがて内側から変質し、西側のルールに近づいていくという楽観論がありました。しかし、こうした米国流の関与政策が幻想だったことがはっきりしてきた。
富坂:中国は中国なりに変化していると思います。たとえば、不動産バブルの崩壊についても、背景には中国経済を不動産依存から脱却させるという習近平の決断があった。さまざまな方法で人為的に不動産価格を下げて、都市によっては18%くらい下がりました。
手嶋:意図的に不動産バブル崩壊させたのですね。
富坂:そうです。水面下で準備していたから、激しいハードランディングは今のところ起きていません。庶民が不動産を買えなくなっていることが問題なのです。10億円持っている人が2億円を不動産に投資してバブルが起きたので、バブルが崩壊しても生活に困るというものではない。習近平は富裕層が痛むのは仕方がない、それよりも「自分たちが生きている間に不動産は買えない」という層が増える方が深刻だと考えている。ですから、明らかに3年前から不動産価格を下げる政策をとっていた。あまりうまくはいっていないのですが、国が安い価格帯の“平民マンション”を作ったりもしています。
手嶋:逆に言えば、中間層を中国社会の基軸として育てたい、そんな政策を目指して不動産バブルの風船を割る決断をした訳ですね。富坂さんの見立てはとても重要です。中国に限らず健全な中間層は、国の経済の牽引役で、健全な中間層が存在する国の経済は実際栄えてきた。習近平政権の狙いは分かりますが、果たして今の中国にそんな転換ができると思いますか。