30歳にして初めてレギュラーに定着した男が本塁打王を獲得──2021年プロ野球でオリックスのリーグ優勝に、4番の「ラオウ」こと杉本裕太郎の“覚醒”が大きく貢献したことは間違いない。
プロ入り5年でわずか9本塁打だったラオウが、昨年いきなり32本を放った背景にあったのが「バレルバット」だ。考案者は日本人初の3A野手・根鈴(ねれい)雄次氏。ラオウは2018年から根鈴氏の指導を仰ぎ、バレルバットで研鑽を積んだ。
名前の「バレル」には2つの意味がある。グリップ上部のコブが樽(バレル)に似ていること。そして、「バレルゾーン」と呼ばれる野球理論に由来する。
バレルゾーンとは、野球データ分析で導かれた、最も長打になりやすい打球速度と打球角度のこと。時速158キロ以上の打球が26~30度の角度であがった場合(時速187キロ以上の打球であれば8~50度の場合)に長打が出やすくなる。根鈴氏は打球速度にかかわらず「常に20~30度の角度で打球を打ちたい」と指摘する。バレルバットは、打球がその角度に入りやすい設計になっているという。
形状は長さ約85センチ、重量約1500グラムと、通常のバットより1.5倍ほど重い。また、グリップ上部のコブに重りがあるため、バットの重心が手元付近にあるのも特徴だ。
こうした特徴から、どんな効果が得られるのか。本誌・週刊ポスト編集部員が実際にバレルバットを振ってみた。
日本では古くから、バットを地面と平行に出す「横振り(レベルスイング)」がよいとされてきた。ところが、バレルバットを横に振ろうとすると、遠心力がバットの先端側にかかって外向きに重みを感じる一方で、手元のコブにも重りがあり、腕に相当な力を込めて振らなければならなかった。
そうではなく、根鈴氏が推奨するのは「縦振り」だ。
「重力に逆らわず、バットのヘッド(先端)を捕手側に倒しながら下に落とし、そのまま体の前で円を描くように振る。ゴルフスイングのようなイメージです。そうすれば余計な力を入れなくても、重力と遠心力が同じ方向に働いてスイングの味方になってくれます」