人間は死に瀕した時、どんな光景を目にするのか。西本クリニック院長の西本真司医師は、医学的な見地からは「脳の働きによるもの」との説が有力だと語る。西本医師は1992年に潰瘍性大腸炎を発症して入院。激しい腹痛や下痢が続き、血便が出るなどして1か月で体重が23kg減少して臨死状態を経験した。
「死に臨んで生命がギリギリの状態になると、苦しさを和らげるために鎮痛作用と快感作用のある脳内物質エンドルフィンが分泌され、充足感や多幸感が得られるとの説があります。また、出血多量などで血中酸素が低下すると、低酸素になった脳の働きによって幻覚などの臨死状態が生じるとの説もあります」(西本医師)
仮に臨死状態が脳の働きによるものならば、死後の世界は存在せず、脳が作り出した幻覚となる。2013年に心肺停止を経験した作家の中村うさぎ氏(63)が語る。
「体中の筋肉が突っ張って激痛が走り、スティッフパーソン症候群の疑いもあって入院したんです。その入院中に容体が急変して心肺停止になりました。テレビの電源が切れたようにプツッと真っ暗になって、目が覚めたら3日ほど経っていた。臨死体験でトンネルの向こうに光が見えるという人がいるけど、そういうことはなかった。時間が経過しているという感覚もまるでなかったですね。
もともと死んだら終わりと思っていたけど、本当の意識不明を経験して、やっぱりあの世はないと確信しました。死んだ後にも自意識に縛られ続けるのはまっぴらごめんだし、無になれるという確信は私にとって救いでしたね」(中村氏)
しかし、科学的な見地から「死後の世界」を主張する説もある。前出の西本医師によれば、脳の機能だけでは説明がつかない現象があるという。
「例えば、臨死体験者が手術中に『手術されている自分自身』を見る経験は、脳の反応だけでは説明できません。僕は実際に臨死体験中に自宅マンションの踊り場にキティちゃんの自転車が置いてあるのを見ましたが、退院後に確認したら実際にその場に自転車が置いてあり、あれは本当の体験だったと理解しました。臨死中に意識や魂が体から抜け出して、また戻ってくることは可能と思っています」(西本医師)