2021年11月、若手落語家日本一を決める「NHK新人落語大賞」で女性初の大賞受賞を成し遂げた桂二葉(によう、35)。審査員5人全員が満点をつけての圧勝で新たな歴史を刻み、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの上方噺家だ。「女に落語はできない」と言われ続けてきた逆境のなか、ストイックに古典落語を追求し、その魅力を伝える落語界のライジングスターの素顔に迫った。
もし落語界に流行語大賞があるならば、昨年ナンバーワンの流行語は「ジジイども、見たか!」に違いない。桂二葉が大賞受賞後、口にした魂の叫びだ。
入門して今年3月で丸11年を迎える。周囲から「女に古典落語はできひん」「女はお茶子の仕事だけやっとけ!」と言われたこともあり、古い体質のジジイの壁は幾度となく理不尽に立ちはだかった。
「上方の小屋には前掛けを着けたお茶子さんという専属の女性がいて、噺家が変わる時に座布団をひっくり返すなど高座の支度を整えます。時には男性を含めて前座の噺家がその仕事をすることもありますが、私は女性というだけで“前掛けせえ”と強いられました。『私、落語家やのに、なんでそんな前掛けせなあかんのですか?』と、腹が立って悔しかったですね」
大学時代にテレビで見た笑福亭鶴瓶のファンになり、落語会に通う内に「アホ」が登場する古典落語の虜になった。卒業後はスーパーに就職。奨学金を返済しながら200万円を貯め、満を持して桂米二に弟子入りした。
「幼少期から話すのが苦手で、クラスでいちびっている(調子にのる)男の子の姿にすごく憧れていました。私もそうなりたいと悶々としていましたが、堂々と人前でアホになる姿をさらけ出す落語を見て、これや!と思いました。でも落語のイロハを知らず、覚えが悪くて入門後は苦労の連続。最初は15分のネタを覚えるのに6か月かかったんですよ。ようここまできたなって思います」
二葉は高座に上がった瞬間、別人になる。
「落語は想像芸。聞き手も一緒にその世界に入って楽しんでもらうのが醍醐味。高座では裸見られたほうがマシやなと思う時もめっちゃありますよ。怖いけれど、ウケた時は嬉しくて最高ですね」
撮影/太田真三 取材・文/上田千春
※週刊ポスト2022年3月4日号