「あらアナタ、水難の相が出てるわよ! 一体、何のお仕事していらっしゃるの?」。同じマンションに引っ越して来た男性にぐいぐい迫る、チリチリのソバージュで奇抜なファッションに身を包んだアラ還おばさんの姿に、多くの視聴者たちは度肝を抜かれた。なぜならその正体が、「きれいなおねえさんは、好きですか」のCMで一世を風靡し、『やまとなでしこ』(フジテレビ系)などあまたのドラマで主演を張ってきた女優・松嶋菜々子(48才)だったからだ。
「松嶋さんがオファーを受けてくださると聞いたときは、びっくりして椅子から転げ落ちそうになりました」
そう振り返るのは、テレビ朝日系ドラマ『となりのチカラ』(木曜夜9時〜)の服部宣之プロデューサーだ。同ドラマは松本潤(38才)演じる主人公・中越チカラが同じマンションに住む住民の悩みを解決していく“社会派ホームコメディー”で、松嶋はチカラ一家の隣人で占いマニアの道尾頼子を演じている。
脚本を担当するのは2011年に大ヒットしたドラマ『家政婦のミタ』(日本テレビ系)でも松嶋とタッグを組んだ遊川和彦。制作サイドが恐る恐る出したオファーを遊川氏との信頼関係から快諾した松嶋だが、撮影現場では試行錯誤の日々だったという。
「リハーサル中に『もっともっと声を低くして、身振り手振りをおばさんっぽく大きくして欲しい』との指示が遊川から飛ぶと、松嶋さんは“どうすればいいの”と頭を抱えていらっしゃいました。でもクランクイン当日に現場に現れた松嶋さんはまさに思い描いていた頼子そのもの。遊川のオーダーに完璧に応えていました」(服部さん)
辛口ドラマ評で知られるコラムニストの今井舞さんも松嶋の「決意」に拍手を送る。
「かつて日本のドラマにおいて、こうしたおばさん役を演じていたのは脇役専門の無名の女優がほとんど。たまに名のある女優が演じることがあっても、演技よりも“どれだけきれいに映るか”を優先していたように思えます。
たとえば2002年に放映された松本清張原作のドラマ『鬼畜』で町工場で働く中年労働者の女性を演じた黒木瞳(61才)は、首にスカーフを巻き、汗ひとつかかずに働いていました。しかし、松嶋さんからは『これからおばさん女優としてやっていく』との矜持を感じます。ドラマ『後妻業』で老人の遺産を狙う中年女性を演じた木村佳乃(45才)にも感じましたが、近年、年齢を重ねた肌や容姿を含めて味にしようと奮闘する女優が増えてきたと感じます」(今井さん)