臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、フィギュアスケートのカミラ・ワリエワ選手とウクライナ侵攻に見る“強いロシア”について。
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ドーピング違反が発覚しながらも北京五輪への出場が認められ、フィギュアスケート女子シングルで4位に終わったROC(ロシア・オリンピック委員会)のカミラ・ワリエワ選手。彼女が騒動後、初めて更新した自身のSNSのコメントが、あまりにも“ロシア的”で驚いた。コーチ陣に感謝の意を表しているのだが、その内容がなんだか一昔前のソ連をイメージさせるものだったからだ。
「私のコーチは、彼らの分野の絶対的な指導の達人です。そしてトレーニングするだけでなく、自分自身に打ち勝つことを教えてくれます。これはスポーツだけでなく人生にも役立ちます。あなた方が私のそばにいると私は守られていると感じ、どんな試練も乗り越えることができます。私が強くなるのを手伝ってくれてありがとう」
この国では指導者は絶対的な存在であり、選手はいつどんな時でも強くあらねばならならいのだろうか。
女子シングルフリーのジャンプでは、まさかの転倒を繰り返したワリエワ選手。ドーピング問題でバッシングを受け続けた中での試合でも、彼女を指導してきたコーチ、エテリ・トゥトベリーゼ氏は、戦うこと、強くあることを求めた。絶望的な表情を見せながらリンクを後にしたワリエワ選手に対し、「なぜ3回転アクセルの(失敗の)後にあきらめたの?なぜ戦わなかったの?説明しなさい」と叱責したのだ。
この言葉の裏を返せば、彼女たちの五輪は競い合うものではなく戦うもの。ロシアでは決してあきらめてはいけないし、戦いを放棄してはいけないということだろう。
勝つためなら15才の少女にどんな言葉を浴びせても良いのか。誰もがそう思っただろう。ワリエワ選手から検出された薬物反応の真相が明らかになっていないにも関わらず、ロシアでは帰国した選手たちに、“自前の表彰式”とも言えるセレモニーが行われ、ワリエワ選手にも同じく特別賞が贈られたという。その様子は、そこまでのプロセスよりも終わりよければ全てよし、過程よりも結果を重視するという「結果バイアス」がロシアにあることを印象付けたようなものだった。
ワリエワ選手は、五輪前のプーチン大統領とのオンライン壮行会で、「できるだけ多くのメダルをロシアのために勝ちとるよう努力します」と述べている。彼女たちが戦う第一義は、ロシアのためなのだろうか。