2月22日に開幕した三宅健主演の舞台『陰陽師 生成り姫』。安倍晴明が主人公の作品はこれまで多くの俳優が演じてきたが、今作はそれらとは「一味違う」という。コラムニストで時代劇研究家のペリー荻野さんが解説する。
* * *
新橋演舞場で上演中(12日まで、京都南座18~24日)の三宅健主演の『陰陽師 生成り姫』には、いろいろと驚かされた。
原作は夢枕獏の人気小説。物語は、都で朝廷に仕える陰陽師・安倍晴明(三宅)が、親友の源博雅(林翔太)から、十二年前に出会った姫の話を聞くところから始まる。その後、琵琶の名手であった姫(音月桂)は博雅の笛の音を聞いて、再び姿を現し、助けを求める。姫は哀しい経験から、鬼になりかけていた…というもの。
晴明と博雅は、シャーロック・ホームズとワトソンに例えられるが、犯人探しとは違う複雑さがある。人はなぜ、鬼になるのか? それも重要なテーマだ。
三部構成の舞台で一番驚いたのは、さまざまな怪異、超常現象をほぼ人の手で表現しているということだ。
映像作品の安倍晴明は、平成以降でも、野村萬斎、稲垣吾郎、三上博史、窪塚洋介、市川染五郎(現・松本幸四郎)、佐々木蔵之介などが演じてきた。それらは晴明が繰り出す術や都に跋扈する魑魅魍魎の姿など最新技術を駆使して、いかに大迫力で見せるかが重要視されてきた。
たとえば2002年のフジテレビのドラマ『陰陽師☆安倍晴明~王朝妖奇譚』では、帝(花田浩之)が都の吉凶を占う「陰陽祭」を開くと、多くの貴族たちが注視する中、燃え盛る炎に鬼の影が。閃光とともに現れたのは、すべての呪術にたけ、鬼神をも操るといわれる陰陽師・安倍晴明(三上博史)だった!
もののけよりもロン毛の清明自身がよっぽどピカピカと怪しく輝いていたが、変幻、変身、特殊メイク、CG、なんでもアリ。実際、これがこのシリーズの見どころでもあった。
だが、今回のアンプラグド『陰陽師』は一味違う。
植物が生い茂る庭を眺め、屋敷でひとり暮らす安倍晴明の周囲には、精霊たちがいて、人間の会話に耳を澄ませる。晴明の身の回りを世話するのは、彼が人間の形にした精霊・蜜虫(岡本玲)。声明は扇の動き一つで、少々口の悪い蜜虫を操ることなど朝飯前なのである。