1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏が、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートする。蛯名氏による週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、3月1日に開業した「蛯名正義厩舎」への思いをお届けする。
* * *
競馬界では3月に新人騎手がデビュー、新人調教師の厩舎が開業し、70歳になられた調教師の方が2月いっぱいで定年を迎え、馬や人が入れ替わります。春の予感も手伝って、なんとなく浮き足だってしまいそうですが、僕が研修させてもらっている藤沢和雄厩舎では、まったくそういう空気は感じられません。
あくまでも「馬優先」。今週で解散だという悲壮感もなく、これまで通りに淡々と仕事をしていたスタッフの姿が目に焼き付いています。そこで日々過ごしてきた僕も「さあ、今週が初陣だ」と気負うことなく、馬の様子を見ることに集中しています。
厩舎の場所も決まり、いまはどうしたら馬にとって心地よい場所になるか、スタッフが仕事をしやすい環境になるかに腐心しています。
ありがたいことに藤沢和厩舎のスタッフが9人、引き続き僕の厩舎でやってくれることになりました。あと1人は、僕がジョッキーの時にお世話になっていて、やはり今回解散する田中清隆厩舎のスタッフで、以前から開業したら一緒にやりたいと言ってくれていました。調教助手の大江原勝、津曲大祐を始め合計10人の精鋭で頼もしい限りです。
普通の組織では上に立つ人が変わると、いきなりこれまでのやり方を改めたりすることがあるかもしれないけれど、僕たちは馬という生き物を扱う仕事。その馬に合ったやり方をしなければいけない。志ばかり高くても、馬に無理をさせてしまっては何もなりません。スタッフもみなそれがわかっていますので、自分の色を出すぞ、ということではなく、あくまでこれまでの延長線上でありたいと思います。
4年近くの技術研修でこの厩舎の馬も人も見てきているので、これ以上のことは何ができるんだろうって思います。藤沢先生と違うものが僕にあるとしたら、ジョッキーとしての感覚ですが、調教など日常のベースは変わりません。「丈夫な馬をつくる」という考え方を継承していかなくてはならないと思っています。