風速20メートル、波高3メートルの荒れ狂う東シナ海に浮かぶ尖閣諸島は、日本の領土でありながら日本人が行くことのできない国境の島である。様々な事情で上陸できない日本領土の島々を撮り続けた報道写真家の山本皓一氏が、国境最前線の今を伝える。
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沖縄県石垣市は1月31日から2月1日にかけて、東海大学に委託する形で尖閣諸島周辺の海洋調査を実施した。調査船「望星丸」には中山義隆・石垣市長も乗船。私は過去9回の現地取材経験が認められ、“水先案内人”として特別に同行を許可された。
尖閣周辺の接続水域では中国海警局の公船2隻が調査船に接近してきたが、中国船の動きを予測察知していた海保の巡視船8隻が調査船の前後左右を完全にガード。上空では海自の哨戒機も状況を監視するなど、調査は滞りなく実施された。
尖閣諸島は「日本人が行けない日本の島」の象徴的存在である。政府は「尖閣諸島の安全な維持管理」を理由に民間人の島への上陸を認めておらず、それは行政トップの石垣市長も例外ではない。戦前に248人が生活した記録も残る魚釣島だが、戦後、中国が領有権を主張。2012年には当時の民主党政権が魚釣島を国有化したものの、いまも周辺海域を公然と中国船が行き交う「領海侵犯」が常態化している。
これまで、中国船が出没するたびに「遺憾」を表明することしかできずにいた日本政府だが、今回、海保、海自との連携で海洋調査が10年ぶりに実施されたことは、積極的な実効支配強化の一歩として大きな意義がある。
調査を担当した山田吉彦・東海大学教授が語る。
「今回の調査は保秘を徹底し、他国に情報が漏れないよう細心の注意を払いました。計画自体は5年以上前から考えており、2021年12月に市議会で予算を確保しました。法と秩序を守れば調査活動を許可するという政府のスタンスは、日本の領土保全戦略の一環として正しいと思いますし、海保、海自の領土防衛能力を示したことの意味は大きいと思います」
攻めの姿勢で臨む日本の領土防衛が、いま始まろうとしている。
【プロフィール】
山本皓一(やまもと・こういち)/1943年、香川県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。「日本の国境」をテーマに撮影・取材を始め、「国境の島々」をテーマに、北方領土、尖閣諸島、竹島、沖ノ鳥島、南鳥島など全島の上陸取材に成功。2004年、講談社出版文化賞写真賞受賞。『日本人が行けない「日本領土」』『日本の国境を直視する1尖閣諸島』など著書多数。
撮影/山本皓一
※週刊ポスト2022年3月11日号