「老いを完全に止めることはできませんが、老いを遅らせることはできます。生き生きとした生活を長く維持するためには、最後の活動期とも言える70代をどう過ごすかがカギになる」。こう語るのは、20万部のベストセラーになっている『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)の著者で精神科医の和田秀樹医師である。和田氏が70代の過ごし方について語る。【前後編の後編。前編を読む】
老化を防ぐには、食事などの生活習慣も大切だが、これも「70代から」は考え方を変える必要がある。
そのひとつが、肉食は「控える」のではなく、「積極的に食べる」こと。加齢とともに意欲レベルが低下する原因のひとつが、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの減少だ。セロトニンは別名「幸せ物質」とも呼ばれ、これが減ると日々の幸福感が薄れ、はつらつとした若々しさや活動意欲が低下してしまう。気分が沈んだり、イライラして感情が不安定になるうえ、うつ病のリスクも高まる。
このセロトニンの減少を防ぐのが、肉食だという。
「セロトニンの材料となるのはトリプトファンというアミノ酸で、これは肉に多く含まれている。肉を積極的に食べることで、セロトニンの生成が促進され、意欲低下を防ぐことにつながります」(以下、「」内は和田医師)
肉にはコレステロールが多く含まれるため、動脈硬化を促進して心筋梗塞などのリスクを高める「悪者」扱いされているが、これにも疑問を呈す。
「心疾患が死因のトップのアメリカならともかく、日本では心筋梗塞で亡くなる人の数はがんの10分の1。OECD諸国のなかでも格段に少ないのです。コレステロールは男性ホルモンの原料にもなる大切なもの。肉の過食による動脈硬化ではなく、コレステロールを減らすことでもたらされる男性ホルモンの減少こそ気にするべきです」
70代になったらダイエットも「厳禁」だ。肥満度は体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値「BMI」が指標とされ、「18.5以上25未満」が標準となっている。
「しかし、国民栄養調査では、太り気味とされるBMI25以上30未満の人がいちばん長生きで、BMI18.5未満のやせ型の人の死亡率はその2.5倍も高かった。アメリカでの調査でも同様で、やせている人よりも、少しぽっちゃりしている人のほうが長寿だという結果が出ているのです」
中高年になると血圧や血糖値をコントロールするために薬を服用している人も増えるが、70代になったら、これも見直す必要があると言う。
「薬で血圧を下げるのは、将来、心筋梗塞や脳梗塞、脳卒中のリスクを減らすためですが、薬で『正常値』まで血圧や血糖値を下げてしまうと、身体がだるくなり、頭がボーッした状態になることがよく起こる。薬によって検査数値が正常範囲になったとしても、活動レベルが落ちてしまえば、元気のない老人になっていくだけ。正常値にこだわらず、日常の生活レベルを落とさない程度の薬にしたいと医師に伝えてみてはどうでしょうか。
私も血糖値と血圧の薬を飲んでいますが、血糖値は200、血圧は170くらいに抑える程度にコントロールしています」