二〇一〇年に公開された北野武監督・主演の映画『アウトレイジ』のポスターといえば、主要キャストの顔半分だけが切り取られたアップの写真が並ぶレイアウトも迫力があったが、そこに余計な文言を入れず「全員悪人」と一言だけ添えられたコピーもまた、大きなインパクトを与えた。そのポスターをデザインした中平一史氏に時代劇研究家の春日太一氏が話を聞いた。
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中平:あの「全員悪人」というコピーが一番簡潔でキャッチーでしたから、宣伝側としても「全員悪人」をどう強調させようかという意図は強くありましたね。
──その狙いは、ズバリ成功したと思います。
中平:何より目立つセンターに「全員悪人」を入れることにしました。上段の四人と下段の七人、全ての写真にかかるようにレイアウトしています。
──それによって、本当に「この全員が悪人なんだ」とパッと見て分かるようになっています。
中平:全員にかかるコピーだということが重要でした。下段の方に入れると、全員という印象が薄まってしまいますからね。
──書体については、どう考えられましたか?
中平:明朝は考えていませんでしたね。太いゴシックで、強いイメージでやろうと。それで文字間もギチギチに詰めました。
――そして、写真はモノトーン。これも迫力がありました。
中平:実は、印刷の段階で銀のインクを少し入れているんです。プロセスカラーだけの調整だと、どうしてもこのギラギラ感が出てこない。そこに銀のアミを少し足すことで、テカリが出てこういった効果が出るわけです。
──このポスターをマネしたくて、スマホのアプリを使って写真をモノクロに処理してみることがあるのですが、なかなか同じ迫力が出ないのはつまり……。
中平:こちらには銀が入っているからなんです。
── 一方で「アウトレイジ」というタイトルはピンク色ですね。
中平:最初は赤だったんです。でも、赤だとダイレクトに血の色を連想させてしまうということで「ちょっと怖い」となりました。それだったら思い切ってピンクにふった方がやくざ映画としては斬新なものになると思いました。