世界では続々と女性リーダーが誕生しているのに、日本ではいまだ実現していない。それほどまでにこの国の「ガラスの天井」は硬いのか──。先の自民党総裁選で岸田総理に肉薄した高市早苗・同党政調会長(61)は、日本初の女性総理候補のひとりと目される。ノンフィクションライターの常井健一氏が斬り込んだ。「週刊ポスト」の新シリーズ《女性総理、誕生!》から飛び出したスピンアウト企画。【全4回の第4回。第1回から読む】
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昨今の高市氏といえば、保守系言論誌の誌面を飾るような「タカ派的発言」に注目が集まり、その思想性が称賛や批判の対象にされることが多い。だが、総務相時代は行政手腕を発揮し、当時を知る記者たちからの評価は高い。
かんぽ生命の不正販売問題や、ゆうちょ銀行の不正引出事件をめぐり、総務省や日本郵政が隠蔽に走る中、高市氏が率先して情報公開に踏み切る場面が相次いだ。役所の論理と対峙し、国民のために戦う大臣を演じた。
そんな高市氏が目標とするマーガレット・サッチャーは、こんな言葉を残している。「リーダーは好かれなくてよい。しかし、尊敬されなければならない」。
サッチャーは領土を侵す他国の暴挙に立ち向かい、弱者を困窮させる不人気な改革も断行した。お国のために──。男より男らしい「鉄の女」は、女性の出世をはばむ「ガラスの天井」をものともしなかった。
一方、日本版サッチャーは保守派の男性たちを惹きつける反面、一部のフェミニストからは「女性に厳しい女性」と批判を浴びる。それも女性の総理候補ならではの「宿命」なのかもしれない。
「私、『ガラスの天井』って言葉があまりよくわからなくて。総裁選って20人の推薦人を集めたら男性でも女性でも出れるやないですか。別に、『ガラスの天井』はなかった」
──男性の有力議員であっても、推薦人を集められない人はいました。高市さんの出馬経過を見ていると、推薦人集めで性差を感じませんでした。
「それに、女性議員は増えてほしいけど、無理やり増やすための枠を作っちゃうと、行き過ぎた結果平等になってしまいます。私は昔から『チャンスの平等』をちゃんと確保すべきだという信念なので、法律を変えてクオータ制(候補者の一定比率を女性にする規定)を導入することには明確に反対です。公職選挙法は男性も女性も同じ条件で、配れるビラの数も法定費用もまったく同じですから。そこは法律をいじっちゃいけない」
──クオータ制を主張する野田聖子さんと真っ向から対立する立場ですね。
「でも、同じ阪神ファンなの。ついでに福島瑞穂さんもタイガース」
──意外な共通点(爆)。
「多くの女性議員にとってネックになっているのは、子どもを産んで育てたり、親の介護もある中で、出馬する時期や上のポストを狙うチャンスを逸することですよ。元日も含めて1日も休みが取れない仕事ですから。私もしんどい思いをしたのは親の看病と介護の時でした。父が最初で母が次って、長いこと続いたんで。そういう負担が女性にのし掛かる場合が多い現状は変えていかないといけない」
──高市さんは自分の苦労を他人に一切見せない。
「そんなの私の事情ですから、みなさんに語ったって仕方ない。ただ、そういう中で一生懸命働いて、大臣になっても、男性議員には『女性枠だから』と揶揄されます。『いいよな、女は。オレも性転換したいよ』と面と向かって言われましたよ」
──「永田町は嫉妬の海」と言われますが、思った以上にシビアですね。
「安倍政権で総務相を足掛け4年やりましたが、『アイツに総務省が回せるのか』と、周りから見ていた男性議員も多かったでしょう。私はずっと経済産業の分野をやってきたので、(地方自治や郵政を所管する)総務省はミスマッチだという声もあがりました。安倍総理が、(総務省が所管する)情報通信政策に私が強いと言葉を添えてくださったので少し救いになりましたが、地方自治に詳しい男性議員には申し訳ないという気持ちがありました」