近年のエンタメ界を見渡すと、恋愛ドラマの多様化と活況が目につく。SNSや配信サービスなどの普及で、視聴者の好みをより即時的に、より細かく反映しやすくなったこともあるのだろう。目立った地上波ドラマを挙げると、2018年、2019年は『おっさんずラブ』が旋風を巻き起こし、2020年には5人のセフレが居るアラサー女性を描きながら、いまどき男女の性生活を全肯定する『来世ではちゃんとします』が深夜枠ながら話題をさらった。
2021年には偽装結婚から始まる夫婦の形を描いた『婚姻届に判を捺しただけですが』、勝気な盲学校生と純粋な不良少年を描いた『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール』、今年に入ってからは他者に恋愛感情も性的欲求も抱かない「アロマンティック・アセクシュアル」の男女を描いた『恋せぬふたり』など、今までメインでは描かれてこなかった設定やカップリングの作品が目立つ。これは、さまざまな恋愛の形を肯定的に捉える層が増えたことの証左といえるだろう。ちなみに先に挙げた5作のうち3作はマンガ原作でもある。
一方、現実世界では緊急事態宣言が何度も発出され、盛り場に灯る明かりは減り、肩がぶつかる距離で人とすれ違うことさえ減った。では、「ソーシャルディスタンス」「三密回避」といったワードが飛び交う都市で、人と人とが一番密になれる場所と言えば? 答えはラブホテルだ。
『女性セブン』連載中も話題を呼び、このほど1巻が発売された都陽子著『これを愛と呼ぶのなら』には、ラブホテルを舞台にあらゆる恋愛がオムニバス形式で描かれる。70代の老夫婦、初々しい百合カップル、マッチングアプリで出会った男女……。先に挙げた恋愛ドラマの多様化をこれ一冊で担うかのようなバラエティーに富んだカップリングが次々に登場。その秘め事が垣間見られる内容となっている。
目的が限定された密室空間が舞台とはいえ、そこで交わされるのは行為だけではない。レス夫婦がお互いに抱えていた「今まで言えなかった一言」を吐露しあう回もあれば、逆に近しい人には言えない赤裸々な本音が行きずりの関係の中で剝き出しになる回もある。
背徳感交じりの好奇心から引きこまれるようにページをめくるうち、キャラクターひとりひとりが抱える切実な問題に触れ、彼彼女らにエールを送りたい気持ちになった。心の中を占めていたザワめきを1枚、1枚脱ぎ捨てるようにして本心を見つめ、たとえそれが痛みを伴おうと前に進もうとする姿に生と性のきらめきを見たからだ。