がん治療法は長年にわたって手術、抗がん剤、放射線の「3大療法」が標準とされてきたが、それが大きな変革の時を迎えている。新たな治療法の登場により、これまで3大療法では命が救えなかった症例に光が差している。
そのひとつが2019年に日本で治療薬(キムリア)が承認された「CAR-T細胞療法」だ。がん細胞を攻撃する免疫細胞で中心的役割を果たす「T細胞」の働きを“増強”することで効果を発揮する。毎日新聞医療プレミア編集長で『がん治療の現在』の著書がある永山悦子氏はこう話す。
「CAR-T細胞は一部の血液がんの治療薬として2017年に米国で実用化されました。これまで治療が進まず命を救えなかった種類のがん患者が長生きできるようになり、医師たちは『驚異的な効果だ』と口を揃えています」
どのような薬なのか。『親子で考える「がん」予習ノート』の著者で国際医療福祉大学病院教授の一石英一郎医師が説明する。
「CAR-T細胞療法は、患者さんから採取した血液に含まれる『T細胞』という免疫細胞の遺伝子を改変し、がんへの攻撃力を高めて、体内に戻す免疫療法です」
2007年以降、米国を中心に臨床試験が始まり、現在は臨床の現場で使われている。この治療法が一躍世界に知られることになったのが、2012年に実施された臨床試験だった。米国人女性エミリー・ホワイトヘッドさん(当時7歳)の命が救われた。
「急性リンパ性白血病で、抗がん剤も効かず骨髄移植もできなかったエミリーさんにCAR-T細胞療法を施すと、がんが消えたのです。エミリーさんは毎年、『がんから解放されて○年!』と書いたボードを手にした写真をSNSに投稿して、関係者から注目されています。2021年5月には『9年』の写真を公開しました」(永山氏)
同療法をめぐっては、最近も成果が発表された。
「英科学誌『ネイチャー』に今年2月に掲載された米ペンシルベニア大学の研究チームの論文によると、2010年の臨床試験でCAR-T細胞療法を受けた再発性・難治性の白血病患者2人が、10年経った今も寛解を維持しているそうです。この症例報告はがんに打ち克ったと読める。革命的なことだと思います」(一石医師)