ロシア軍のウクライナ侵攻が続くなか、日本の国会では「特使派遣」が議論の俎上に載せられた。そこで名前が挙がったのが、総理時代に何度もプーチン大統領と会談を重ねた安倍晋三元首相だった。しかし、状況を冷静に見れば、それがいかに的外れな議論かが浮かび上がってくる。
3月8日の参院外交防衛委員会では、立憲民主党の羽田次郎氏から「安倍元首相の特使派遣」を検討しないのかという質問が出た。ベテラン政治ジャーナリストが言う。
「たしかに、安倍氏は在任中に11回もの訪露を行ない、プーチン大統領とは27回も会談を重ねてきた。『シンゾー』『ウラジーミル』と呼び合うなかであることが繰り返しアピールされてきた。安倍氏は米国のトランプ前大統領やトルコのエルドアン大統領、イスラエルのネタニヤフ前首相など、クセの強い国家リーダーと個人的関係を築いてきて、プーチン大統領もそのうちのひとりでした」
しかし、野党からの質問を受けた林芳正外相は「現時点で特使を派遣する考えはない」と答弁し、否定的な答えだった。「それは当然でしょう」とするのは自民党関係者だ。
「安倍氏はロシアとの北方領土交渉を進めるためにプーチン大統領との距離を縮めようとしたが、結局、領土交渉に進展はなく、経済協力ばかり引き出されてきた。欧米の主要国の首脳が欠席した2014年のソチ五輪の開会式にも安倍氏は出席して、その直後にロシアは武力によるクリミア併合に踏み切るなど、むしろプーチン大統領からは“御しやすい相手”と見られてきたとさえ言える。
今回のウクライナ侵攻に際しても、安倍氏は日本に米国の核兵器を配備して日米で共同運用する『核シェアリング』についての議論にばかり熱心に見える。自身のタカ派的なスタンスをアピールするために使っているフシさえあるのです」