ロシアのプーチン大統領が「今回の作戦はウクライナ政権に虐殺されてきた人々を保護する目的だ」と見え見えの嘘で軍事侵攻したのは、どうせアメリカのバイデン政権は動けないと見透かしていたからだ。その背後には「あの男」がいた──。アメリカ現地から高濱賛氏(在米ジャーナリスト)がレポートする。
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今回の軍事侵攻を「崖っぷち戦略」などと報じる欧米や日本のメディアはプーチン大統領の真意を読み違えている。実は「かねてから用意周到に練られたNATO(北大西洋条約機構)拡大阻止の一環」(キャサリン・ストーナー・スタンフォード大学教授)だからだ。
プーチン氏の強気の理由は2つある。まず、反米感情が高まる国内で、同氏の「大ロシア」(ソビエト連邦)への回帰志向に大衆が異議を申し立てるわけがない。最近の世論調査では、年金問題や物価高でプーチン氏の支持率は下がっていたから、外敵を叩いて愛国心を鼓舞する判断は理にかなっている。
そして、同氏が進軍ラッパを吹くもうひとつの理由は敵国アメリカにいる「盟友」の存在だ。バイデン大統領の政策すべてにイチャモンをつけてきたトランプ前大統領である。二人はトランプ氏の大統領就任前からビジネスを通じて深い関係にあり、超大国のトップ同士になってからは、長男トランプ・ジュニア氏とプーチン側近らが頻繁に接触していた。
トランプ氏は2月14日、「私が大統領だったなら、こんなことは絶対になかった」とツイートしたのに続き、22日には保守系ポッドキャスト「クレイ・トラビス&バック・セックストン」のインタビューでこう吠えた。
「テレビを見て、『こりゃ天才だ!』と叫んだよ。プーチンはウクライナの大部分に軍隊を侵攻させ、東部地域を独立国家だと宣言した。すごいことだ。私は『プーチンは頭がいい』と言った。この軍隊は(ウクライナ政府と独立派住民の)調停者だ。強力な和平監視役になる。こんなに多くの戦車は見たことがない。
アメリカもこんな軍隊を(不法移民が殺到するメキシコとの)国境に派遣できればよかった。我々もいずれ(ウクライナ問題に)加わって平和を維持する。プーチンという男はまったく抜け目がない。私は彼を知り尽くしている」
そして返す刀で政敵に斬りかかる。
「言っておくが、こんなことは私が大統領だったら起きなかった。(バイデン政権は)どう対応したか? 何もできずにいる。悲しいことだよ」