人気沸騰中のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。〈未来なんてわからなくたって、生きるのだ。〉〈バトンを渡して、わたしは生きる。〉などのキャッチコピーに示されるように、異例の3世代ヒロインが登場して話題を呼んだ朝ドラもいよいよ最終盤を迎えた。ドラマオタクのエッセイスト小林久乃氏は、本作に“4人目のヒロイン”を見出したという。小林氏が綴る。
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3月に入り、NHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(以下、『カムカム』)が最終章へ突入した。上白石萌音さん、深津絵里さん、川栄李奈さんの3人のヒロインによる戦前からの3世代を描く物語は、放送開始前から話題を呼んでいた。3人一緒に木の上でポーズをとるメインビジュアルを今一度見直すと、女性が自由に羽ばたくイメージが見事に表現されている。今までの朝ドラも良かったけれど、視聴者の間でいつにない盛り上がりを見せているのも頷ける。
その傍らで、もう一人のヒロインだと任命したい登場人物がいる。それがオダギリジョーさん演じる大月錠一郎である。現在のヒロイン・ひなた(川栄)の父であり、るい(深津)の夫。職業はおそらく無職。
朝ドラ史上類を見ない夫の姿
『あさが来た』(2015年)で登場した、ヒロインの夫・白岡新次郎(玉木宏)のように、たとえば「ボンボン」「遊び人」という夫の設定は過去の朝ドラでも散見された。それでも、今回の錠一郎のように、働いている様子が一切見受けられず、いわゆる“ヒモ”状態になっている例は、あまり思い出せない。
朝ドラ史上レアな存在となった錠一郎のヒモっぷりは視聴者の間でも、じわじわと話題に上がっていった。「ジョーさんはなんで働かないの?」「いつまたトランペットを吹くのか」。
ストーリーを振り返ると、錠一郎の少年時代は不遇であり、いつも孤独と隣り合わせという暗雲の立ち込めた半生を送ってきた。戦災孤児で家族を知らない。名前もたまたま拾われた喫茶店のオーナーにつけてもらったもの。時を経てトランペットと出会い、るいとも想いが通い、さあ明るい道へ……と思ったら、原因不明の病気となりミュージシャンの道は断たれてしまう。絶望の果てに海に入ろうとしたところで、るいに救われる。
彼がやっと手にしたのは“大月家”という家族。日向(ひなた)の道を歩く幸せを、数十年かかって掴んだのである。もうこのあらすじを反芻するだけで涙が溢れそうになってくる。錠一郎はただのクズや無職なのではない。るいという最良のパートナーに出会い、自我を見出した、錠一郎ブランドなのである。