「私の果たすべき役割というのは(中略)皇室という新しい道で、自分を役立てることなのではないか」──かつて雅子さまは、会見でそう語られた。世界が未曽有の危機に陥ろうとしているいま、「中立」を貫く日本の皇室で、雅子さまだからこそできること。
国民的人気のコメディー俳優が、テレビドラマで大統領役を演じたのち、本当に出馬して一国の大統領に──ウクライナのゼレンスキー大統領の経歴はドラマチックだ。
2019年5月の就任から5か月後、彼の姿はウクライナから遠く離れた東京にあった。霞が関や永田町を巡り日本の政府首脳や議員、財界人に面会。ウクライナの国内改革を進めたい、東欧の平和・安定を実現させたいと熱く語り、日本からの経済援助を訴えた。また、折からの援助で下水処理場の改修が実現したことなどの感謝を伝えたという。
そしてその翌日の2019年10月22日、ゼレンスキー氏は皇居・宮殿に足を踏み入れた。天皇陛下の即位にまつわる儀式へ参加するためだ。タキシードに白い蝶ネクタイ姿で、微笑んではいるが緊張の色が見て取れる。隣には、ウクライナ国旗の色を思わせる薄いブルーのスリットドレスを身に纏ったオレナ夫人の姿があった。
職員に促され、天皇皇后両陛下に歩み寄ったゼレンスキー氏。差し出された陛下の右手をがっちりと握り、笑顔で祝意を伝える。陛下からのおことばに、ゼレンスキー氏が左手を振ってリアクションするシーンもあった。
その後、ゼレンスキー氏は雅子さまとも握手。雅子さまは、ゼレンスキー氏とオレナ夫人にまっすぐ視線を送られながら、柔和な笑顔でお言葉を返されていた。日本とウクライナの関係にとって重要な瞬間。そして、世界の平和を希求される両陛下にとってもまた、決して忘れられない時間だったはずだ。ゼレンスキー夫妻は家族とともに、京都を訪れるなどした後、日本を離れたという。それから約2年半。ウクライナには惨状が広がっている。
「完全に中立」という特別な力
ロシア軍によるウクライナ侵攻によって、被害は軍事施設に限らず、原発や、民間人が暮らす住宅やアパートメント、民間施設にまで広がった。近隣国へ避難した人は170万人を超えるという。ロシアが武力行使に打って出たのは2月24日。前日は、陛下の62才の誕生日だった。
「国と国との間では、さまざまな緊張関係がいまも存在しますが、人と人との交流が、国や地域の境界を越えて、お互いを認め合う、平和な世界につながってほしいと願っております」
誕生日に際しての会見で、陛下はそう明かされた。しかし、それを踏みにじるように、ロシア軍は国境を越えた。
「日本の皇室は、あらゆる国家間の紛争に中立の立場であり、一方を応援したり非難することはありません。ただ、陛下も雅子さまもテレビや新聞の報道でウクライナ情勢を注視されているといいます。陛下の世界平和へのお気持ちは揺るぎなく、会見で発言された通りの思いを抱かれている」(宮内庁関係者)