過去40年、日本人の死因1位を占める「がん」。がん治療法は長年にわたって手術、抗がん剤、放射線の「3大療法」が標準とされてきたが、それが大きな変革の時を迎えている。新たな治療法の登場により、これまで3大療法では命が救えなかった症例に光が差している。
そのひとつが「ウイルス」による治療法だ。
東京大学医科学研究所の藤堂具紀教授が開発した治療薬「腫瘍溶解性ウイルス」が昨年6月に承認され、同11月、第一三共から発売された。現在は東京大学医科学研究所附属病院(東京都港区)のみで使用されているが、同社は今後、他の医療機関でも実施できるよう供給先を拡大する考えだという。毎日新聞医療プレミア編集長で『がん治療の現在』の著書がある永山悦子氏が説明する。
「新型コロナ禍もあり、ウイルスは“厄介者”との印象がありますが、腫瘍溶解性ウイルスは細胞で増殖する特徴を活かした薬で、正常細胞では増殖せず、がん細胞に感染した時だけ爆発的に増える特徴がある。感染したがん細胞はソフトクリームが溶けていくように変形して破壊されるため、『溶解』と呼ばれます」
正常細胞では増殖しないこのウイルスは、従来のがん治療のような「強い副作用」や「後遺症」がない点が大きなメリットとされる。
その効果はどれほどのものなのか。『親子で考える「がん」予習ノート』の著者で国際医療福祉大学病院教授の一石英一郎医師はいう。
「この治療法は、今のがん治療ではほぼ治らないとされる脳腫瘍の悪性神経膠腫、中でも代表的な膠芽種に効果を発揮します。治験で膠芽種の患者さんに投与したところ、1年後の生存率が92.3%と、標準治療の15%に比べて6倍以上の延命効果が認められたといいます。免疫療法と同じく、画期的な治療法と言えます」
頭部を切開して脳腫瘍にウイルスを直接注射することでがん細胞を破壊する同薬だが、他の固形がんへの応用に向けて研究開発が進められている。
「名古屋大の研究グループが発見したウイルス療法薬は、膵臓がん患者の6人のうち4人に効果が見られたというデータが出ています。その他の研究機関や製薬会社もウイルス療法の実用化を目指しています」(永山氏)