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北方領土・元島民がウクライナ市民の「故郷追われる姿」に思い寄せる

ウクライナ南部オデッサの駅に殺到する避難民たち(AFP=時事)

ウクライナ南部オデッサの駅に殺到する避難民たち(AFP=時事)

 ロシアのウクライナ侵攻で、ロシア軍による攻撃から逃れるため、200万人を超えるウクライナ人が隣国に避難した。ウクライナには18〜60歳の男性の出国を禁じる総動員令が出されており、女性や子供、高齢者の避難民が目立つ。寒空のもと、持てる限りの荷物を抱えて祖国を脱出するウクライナの人々の中には、怯えて泣きわめく子供もいる。そんな避難民の姿を見て、我が事のように胸を痛めている日本人たちが存在する。70年以上前、ソ連(現ロシア)に故郷を追われた北方領土の元島民たちだ。今回、元島民6人に話を聞くことができた。【前後編の前編。後編を読む】

「子供やお年寄りが祖国を追われる姿は見るに耐えません。戦争はいけないと思ってずっと生きてきましたが、今起きていることは75年前と同じです。太平洋戦争後の北方領土がオーバーラップしてよみがえってきます」

 こう語るのは、北方領土・択捉島出身の鈴木咲子さん(83)。太平洋戦争後、鈴木さんは北方領土を不法占拠したソ連の強制退去命令によって択捉島を追われた。

「私たちは島から本土に連れていかれ、ウクライナの人々は祖国から隣国に出るという違いはありますが、生まれ育った故郷を追われるという災難は共通します。住むところや働くところがなくなり、食べるものも支援してもらわなければ生きていけない状況です。お年寄りや子供たちの苦難を思うと、胸が締めつけられます」(鈴木さん)

戦前の択捉島紗那市街(左)と現在の様子

戦前の択捉島紗那市街(左)と現在の様子

 北海道の東北部の海に浮かぶ択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島の4つの島々からなる地域を北方領土と呼ぶ。全体の面積は約5000平方キロメートルで、千葉県や福岡県とほぼ同じ大きさだ。豊かな漁場に恵まれ、動植物の宝庫でもある北方領土は日本固有の領土であり、明治維新以降は本州や北海道から移り住む人で賑わった。

戦前の国後島東佛市街(左)と現在の様子

戦前の国後島東佛市街(左)と現在の様子

 明治元年生まれの祖父が開拓した色丹島の斜古丹で生まれ育った得能宏さん(88)は、戦前の島の様子を今もはっきりと覚えている。

戦前の色丹島斜古丹(左)と現在の様子

戦前の色丹島斜古丹(左)と現在の様子

「学校と家が離れていたから、毎日斜古丹の町を端から端まで見て歩いていたんです。湾岸に大きな捕鯨場があって、漁がうまくいった時は大漁旗を掲げた船が湾に帰ってきました。ビリヤード場や割烹料亭もあり、活気のある風景が記憶に残っています」(得能さん)

色丹島斜古丹での鯨の解体風景

色丹島斜古丹での鯨の解体風景(戦前)

 北方領土は太平洋戦争の始まりの地でもある。1941年11月26日、択捉島の単冠(ひとかっぷ)湾に密かに集結した大日本帝国海軍の機動部隊は真珠湾攻撃に向けて出撃した。単冠湾に面した年萌(としもえ)に住んでいた松尾正美さん(86)は、連合艦隊が出港する様子を目撃していた。

「当時、私の家の目の前にある単冠湾にポツポツと軍艦が集まり、漁船は漁を禁じられていた。そんなある日、朝もやの中を1隻、また1隻と軍艦が沖に出ていくのを見ました。住民はソ連との開戦だろうと話し、まさか真珠湾に向かったとは思いませんでした」(松尾さん)

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