3月13日に初日を迎えた今場所は、まさに「荒れる春場所」という展開となっている。2日目には一人横綱の照ノ富士が大栄翔に金星を献上。カド番大関の正代は初日から3連敗した後、追い込まれた4日目も宇良に敗北を喫しまさかの4連敗。同じくカド番大関の貴景勝も初日は宇良を仕留めたが2日目から連敗。ただ、そうしたなかで白星を重ねているのが新大関・御嶽海だ。関係者の間では早くから、「今場所は御嶽海」と囁かれていたというが、その理由は意外なものだった──。
好調な御嶽海以外の大関陣は、早くも窮地に追い込まれている。初日から3連敗した時点ではカド番を脱出したケースが過去に1例(2021年秋場所・貴景勝)あったが、4連敗となったことでカド番大関のワースト記録(霧島・92年九州場所=陥落)に並び、過去に陥落を免れたことがない領域に入ってしまった。カド番の大関が2人同時に陥落した2004年九州場所の再現の可能性もある(武双山、栃東)。本場所の土俵が荒れている理由について、若手親方はこう話す。
「初場所後、親方や力士な協会関係者250人以上がコロナウイルスに感染し、多くの部屋では満足な稽古ができなかった。照ノ富士が所属する伊勢ヶ濱部屋でも親方や力士に多くの感染者が出たことで、稽古を10日間休んだ。正代も貴景勝もコロナウイルスに感染している。昔から角界では稽古を1日休むと取り戻すのに3日かかるといわれ、本場所の土俵で相撲勘を取り戻すのに苦労しているようだ」(若手親方)
そんななかでも順調な新大関場所の船出となったのが御嶽海だ。会場となるエディオンアリーナ大阪には地元・長野からツアーバスで駆け付けた後援会関係者たちが「御嶽海」と大きくプリントされた応援タオルを掲げている。4日目も背中に「近畿長野県人会」と書かれた揃いの緑の法被を着た35人の集団が「がんばれ御嶽海」の横断幕を掲げていた。御嶽海も初場所後にコロナウイルスに感染し、照ノ富士や他の大関たちと同じように稽古不足のはずなのだが、好調には何か理由があるのだろうか。相撲担当記者はこう見る。
「御嶽海の稽古嫌いは有名な話です。今回の大関昇進については、3場所前が1ケタ勝利のあと、2ケタ勝利、優勝という経過で、安定感のない成績に協会関係者の中には渋い顔をする親方も少なくなかったが、その一方でオミクロン株が猛威を振るう状況下での春場所では、御嶽海の活躍を予想する関係者が多かった。角界にコロナがまん延する中、同じく稽古嫌いの若元春のような力士が上位に進出してきている。
コロナの影響で出稽古が禁止され、合同稽古も中止となっている。多くの部屋でコロナ感染者が出て、稽古不足が続いている。そのため普段から熱心に稽古して調整していく力士よりも、稽古をしない力士が強いのではないか。御嶽海は一気に大関を駆け抜け、横綱に昇進するのではないかと見られている」
御嶽海にとって心強いデータもある。「荒れる春場所」とはよく言われるが、優勝者を見ていくと横綱・大関が大半を占めるのだ。平成以降、横綱と大関以外で優勝したのは1993年の小結・若花田(のちの三代目若乃花)と2000年の前頭12枚目・貴闘力、2021年の関脇・照ノ富士の3人だけ。
「年6場所になった1958年以降、春場所での平幕優勝は若浪と貴闘力の2回のみ。平幕優勝が多いのは名古屋場所で6回ある。そもそも、荒れる春場所と言われるようになったのは、1953年に春場所として大阪で本場所が開催されるようになった際、その土俵が荒れに荒れたからです。羽黒山、鏡里、千代の山、東富士の2横綱時代でしたが、羽黒山が休場し、残りの3横綱も序盤から黒星が続いた。
千代ノ山が“横綱の権威を傷つけた”として“横綱を返上して大関からやり直したい”と申し出るなどの大騒ぎとなったんです。ただ、結果的には大関・栃錦が14勝1敗で優勝している」(前出・相撲担当記者)
これまで御嶽海は何度も大関候補と騒がれながら、そのたびに期待を裏切ってきた。“万年関脇”のイメージが強いが、アマチュア時代は超エリート力士だ。
「昨年の春場所で優勝して大関に昇進した照ノ富士は、新大関の夏場所で優勝。名古屋場所でも白鵬と同点優勝を飾り、大関2場所で横綱昇進を決めた。御嶽海が新大関で優勝を決めれば、大関を2場所で通過して横綱昇進の可能性もある」(協会関係者)
コロナの影響で3年ぶりに大阪のファンの前で開催されている春場所だが、御嶽海にとっては、横綱昇進の足がかりになるのだろうか。