国際情報

手嶋龍一氏が「プーチンの戦争」分析 中国が調停なら「習近平にノーベル賞」の悪夢も

外交ジャーナリスト・手嶋龍一氏

外交ジャーナリスト・手嶋龍一氏

 米・バイデン大統領はなぜ「プーチンの戦争」を止められなかったのか。インテリジェンス小説『鳴かずのカッコウ』や『ウルトラ・ダラー』など、幾多の著作でロシアのウクライナ侵攻を予見してきた外交ジャーナリストの手嶋龍一氏が語る。

 * * *
 四半世紀にわたってウクライナ、中国、ロシアの現場三国の動向を追い続けてきた私としては「プーチンの戦争」は起きるべくして起きたと言わざるを得ない。「昨日の超大国」アメリカの大統領が決定的な局面で対応を誤ったことが、ロシア軍のウクライナ侵攻を許してしまったのである。

 バイデン・ホワイトハウスには、CIAをはじめ複数の情報機関から「プーチンはウクライナ侵攻を既に決断した」との確報が次々に寄せられていた。だが、バイデンは信じ難いミスを犯してしまった。極秘にすべきインテリジェンスを敢えて公表しながら、「侵攻には大規模な経済制裁で応じる」と言うだけで、軍事上の措置は取らなかった。

 NATOに加盟していないウクライナに米軍を派遣する条約上の義務はないと明言して、プーチンの軍事侵攻を招いた。米大統領の机上には「宝刀が載っていない」と手の内を晒す戦略的誤りを犯したのだった。

 果たしてプーチンは安んじてロシア軍にウクライナへの全面侵攻を命じている。日本の機動部隊が真珠湾を奇襲すると知りながら、ルーズベルトが手を拱いていれば囂々たる非難を浴びただろう。その後もバイデンは「攻撃が東部地区に限られるなら制裁も小振りになる」と述べ、「ミグ戦闘機をドイツの米軍基地を経由してウクライナに送る」とのポーランドの要請も断わってしまった。バイデンは迷走に次ぐ迷走を重ねていった。

「想定できない事態をこそ想定し備えておけ」。安全保障に携わる者の大切な心構えだ。だが、米国の外交・安全保障当局者たちにとって「プーチンの戦争」は、彼らの予想を遥かに超えるものとなった。ロシア軍の侵攻は、東部の国境地帯に限定されるはずと楽観的だったが、いまや戦火は全土に広がっている。

 なかでも最大の誤算は、原子力施設への攻撃だった。チェルノブイリ原発はすでに廃炉で、ベラルーシから首都キエフを衝く途上のため占拠したにすぎないと軽く見た。だが、こうした見立ては惨めなほどに間違っていた。ロシア軍は、欧州最大のザポリージャ原発をはじめとする原子力施設を制圧した。プーチンは“神の火”たる原子力は我が掌中にありと誇示、右手に原子炉、左手に核ミサイルをかざし、西側世界への脅しとしたのだ。

 プーチンは国連憲章や国際法など歯牙にもかけない“現代ロシアの皇帝”だ。そして小児病院や産院まで標的にし、正義の戦いだと主張することすらやめ、戦争犯罪者になろうとしている。「プーチンの戦争」は最後の一線すら越えたのである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
広末涼子、「勾留が長引く」可能性 取り調べ中に興奮状態で「自傷ほのめかす発言があった」との情報も 捜査関係者は「釈放でリスクも」と懸念
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”川崎春花がついに「5週連続欠場」ツアーの広報担当「ブライトナー業務」の去就にも注目集まる「就任インタビュー撮影には不参加」
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン
筑波大の入学式に臨まれる悠仁さま(時事通信フォト)
【筑波大入学の悠仁さま】通学ルートの高速道路下に「八潮市道路陥没」下水道管が通っていた 専門家の見解は
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
《事故前にも奇行》広末涼子容疑者、同乗した“自称マネージャー”が運転しなかった謎…奈良からおよそ約450キロの道のり「撮影の帰り道だった可能性」
NEWSポストセブン
長浜簡易裁判所。書記官はなぜ遺体を遺棄したのか
【冷凍女性死体遺棄】「怖い雰囲気で近寄りがたくて…」容疑者3人の“薄気味悪い共通点”と“生活感が残った民家”「奥さんはずっと見ていない気がする」【滋賀・大津市】
NEWSポストセブン
坂本勇人(左)を阿部慎之助監督は今後どう起用していくのか
《年俸5億円の代打要員・守備固めはいらない…》巨人・坂本勇人「不調の原因」はどこにあるのか 阿部監督に迫られる「坂本を使わない」の決断
週刊ポスト
女優の広末涼子容疑者(44)が現行犯逮捕された
「『キャー!!』って尋常じゃない声が断続的に続いて…」事故直前、サービスエリアに響いた謎の奇声 “不思議な行動”が次々と発覚、薬物検査も実施へ 【広末涼子逮捕】
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
再再婚が噂される鳥羽氏(右)
《芸能活動自粛の広末涼子》鳥羽周作シェフが水面下で進めていた「新たな生活」 1月に運営会社の代表取締役に復帰も…事故に無言つらぬく現在
NEWSポストセブン
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン