2月26日、ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相兼デジタル転換相は「IT軍」を創設し、民間人などに広く参戦を呼びかけた。戦いは市街戦だけではなく仮想世界でも繰り広げられている。
「『軍事力』とSNSなどを使った『情報拡散力』との総合力が問われるのが現代の“ハイブリッド戦争”です。そこでは、サイバー戦略が死活的に重要となります」
そう語るのは、世界の情報セキュリティ事情に詳しい国際ジャーナリストの山田敏弘氏。ウクライナのサイバー部隊の実力とはどのようなものなのだろうか。
「ウクライナが行なっているサイバー戦略には、2つの特徴があります。フェドロフ副首相が募ったIT軍は、民間人がロシア政府や銀行などのサイトに一斉に攻撃を仕掛ける『DDoS攻撃』や、SNSなどでロシア国内や世界の世論を揺さぶることが主な活動です。それらは“ソフトな攻撃”と言えます。
それと同時に、より強力なサイバー軍を持つアメリカなどの西側諸国が後ろ盾となり、ロシアからのサイバー攻撃を防ぐといった“ハードな防衛”が行なわれています」
前述の「DDoS攻撃」は、特定のサイトに集中してアクセスすることで機能を麻痺させることを狙ったもので、サイバー攻撃としてはオーソドックスな手法だという。
「ただし、銀行のサイトがストップすれば送金ができなくなり、電子政府が狙われれば市民の生活に混乱が生じる。
ウクライナIT軍は、民間人に標的の選び方や攻撃の仕方、さらには“捕虜となったロシア兵の情報をロシア国民に送って揺さぶる”といった“戦術”を指導しています。これを主導しているのはIT企業の代表を務めウクライナ通信情報保護当局の幹部であるビクトル・ゾーラ氏という人物です。素人でも簡単にできる攻撃なので、今では世界中から30万人以上が参加しているとみられます。兵力で敵わないぶんをサイバー部隊で補い、一定の効果を得ているといえます」(山田氏)
また、西側諸国の強力なバックアップも欠かせないと山田氏が続ける。
「ウクライナは元々、正規のサイバー軍を持ちません。対してロシアのサイバー軍は世界第2位といわれるほど強力です。ロシアが本気になれば核施設を誤作動させたり、レーダーシステムをストップさせて制空権を握ることもできるはず。それが今のところ聞こえてこないということは、アメリカなど西側諸国の強力な防衛が利いていることが考えられます。
ウクライナはこのままソフトとハードの両面で、じわじわとロシアに抗戦していくと思われます」
果たして「プーチンの戦争」をどこまで止められるのか。世界にとって、予断を許さない日々が、当面続くことになる。
※週刊ポスト2022年4月1日号