世界中から非難されながらもウクライナへの軍事侵攻という蛮行を続けるロシアのプーチン大統領。22年間にわたってロシアに君臨し、無慈悲な侵略戦争を仕掛ける暴君だが、そんな彼にも溺愛する人がいる。2人の愛娘だ。とりわけ日本通とされる次女・カタリーナ氏は、プーチン氏の素顔を知る上では欠かすことのできない存在である。次女に取材した経験があるジャーナリストの竹中明洋氏がリポートする。
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プーチン氏には、2013年に離婚したリュドミーラ夫人との間に生まれた2人の娘がいる。1985年に生まれた長女・マリヤ氏と、翌1986年生まれの次女・カタリーナ氏。どちらも日本とはゆかりが深い。とりわけ次女のカタリーナ氏は、サンクトペテルブルグ大学の日本学科を卒業し、日本語にも堪能である。好きな日本料理は湯葉というから、なかなかの通である。
私はかつてカタリーナ氏に関西国際空港で直接取材を申し入れたことがある。2014年6月のことだ。彼女は母方の実家に由来する「チホノワ」という姓を名乗り、ロシアの名門モスクワ大学の副学長補佐という肩書き、そしてもう一つ、アクロバット・ロックンロールというスポーツ競技の団体の役員という肩書きを持っていた。日本にはこの競技の選手らを引き連れて訪れ、関東や関西の大学で実演して回っていた。
アクロバット・ロックンロールは日本では馴染みがない競技だが、ロック音楽にあわせて男女のペアがアクロバティックに飛んだり跳ねたりダンスする。欧州ではそれなりに競技人口があるそうだが、かなりハードな競技である。じつは彼女自身もこの競技の優れた選手であり、前年にスイスで開かれた世界選手権で5位に入賞している。柔道家として知られる父親譲りの運動神経の持ち主なのか。
「ロシアはプーチン氏の故郷であるサンクトペテルブルグへの五輪招致を狙っており、それにあわせてこの競技を正式種目にすべく、日本に何度もやってきて普及を図っているのではないか」
ロシア研究者のひとりからはそんな見立てを聞いたことがある。ともあれ、私が見た彼女は、父親に似てロシア人としては背があまり高くないがブロンドのショートヘアで知的な顔立ちをした女性だった。大学を訪ねて回る合間には、東京のお台場でショッピングを楽しみ、スターバックスでコーヒーを買うという庶民的な様子も。
ただし、彼女の周辺を見るからに屈強そうなボディーガードらが取り巻いており、声をかけるのはなかなか勇気がいった。かつて自分の娘たちを正面から撮影しようとしたカメラマンにプーチン氏が「殺してやる」と言い放ったことがあるそうだが、ロシアではプーチン氏の娘たちの動向について報道するのは、タブーだ。そのため彼女らの存在は秘密のベールに覆われており、私が次女のことを取材していた当時は、インターネット上で検索しても、やたらと胸が強調された赤の他人の写真が出てくるだけだった。
かつてプーチン氏はなぜ娘たちのことを表に出さないのかと米テレビ局のインタビューで聞かれてこう述べている。
「残念ながら我々にはテロリズムに関わる問題がたくさんあるので、娘たちの安全を考えなくてはならない」
ようするにテロの標的になることを恐れていたのだ。2人の愛娘がプーチン氏のアキレス腱になりうるということを示すエピソードだった。