ウクライナのゼレンスキー大統領が、3月23日に日本の国会に向けてどのようなオンライン演説を行なうのか、関係者の間で関心が高まっている。イギリス、カナダ、米国、ドイツに続き、3月20日にはイスラエルの国会に向けてオンライン演説したが、国ごとにメッセージの方向性を使い分けるそのスピーチの能力の高さが明らかになるにつれ、日本政府にはどのような要請がなされるのかが注視されるようになっているのだ。
各国の議会に向けての演説の皮切りとなった3月8日のイギリス議会に向けてのオンライン演説でゼレンスキー氏は、英劇作家・シェークスピアの「生きるべきか、死ぬべきか」というフレーズを引用し、第二次世界大戦でナチス・ドイツに対抗した英国のチャーチル元首相の名演説を想起させる言い回しを使うなどして、喝采を浴びた。3月20日のイスラエル国会に向けてのオンライン演説もまた、工夫の凝らされた内容だった。ベテラン政治ジャーナリスが言う。
「ユダヤ人国家であるイスラエルに対してゼレンスキー氏は、ロシア・プーチン氏の侵攻を第二次大戦時のナチスによるホロコーストになぞらえて支援を求めました。イスラエルは現在、ロシアとウクライナの停戦交渉の仲介役を試みる一方、米欧が主導する対ロシア経済制裁に加わらず、ウクライナへの武器供与も行なっていない。
そのことに対して、ゼレンスキー氏は“なぜ、あなた方の武器を受け取れないのか”と、直接的に武器の提供を要請しました。イスラエルの強力なミサイル防空システム『アイアンドーム』の輸出を求めるようなかたちの呼びかけとなった。イスラエルのラピド外相は、ウクライナに対して“できる限りの支援を続ける”と応じています。ゼレンスキー氏は相手の難しい立場をわかったうえで、自国に必要な要請を突き付けている格好だ」
そうしたゼレンスキー氏が、日本の国会に向けてどのような演説をするのか。自民党関係者は、「武器提供に話が及ぶことはないだろうか」と表情を曇らせる。
「すでにウクライナのレズニコフ国防相からの装備品提供の要請を受け、日本は防弾チョッキなどの防衛装備品の無償提供を決めました。かつて日本には武器の輸出を原則禁じる『武器輸出三原則』があったが、2014年に安倍政権下で『防衛装備移転三原則』が閣議決定され、一定の条件を満たせば装備品の輸出が認められるようになった。
ただ、現状でウクライナに提供された装備品は防弾チョッキなどで、非殺傷の装備品に限られる。当初のウクライナ側からの要請には対戦車砲や地対空ミサイルも含まれていたとされるが、それらは提供していない。ゼレンスキー氏がイスラエルに対して要請したのと同様に、日本にもさらなる武器輸出を求めた場合、林芳正・外相や岸信夫・防衛相、そして岸田文雄・首相はどのような応答をすることになるのか。難しい対応を迫られることになる」
ロシアの力による一方的な現状変更が許容されないのは当然だが、武器輸出を巡る日本のルール運用が、なし崩し的に変えられることもまた、あってはならないことだろう。