【著者インタビュー】高殿円氏/『コスメの王様』/小学館/1760円
ライトノベルや漫画原作、戦国ファンタジーから、かのホームズ現代女性版まで、圧巻のストーリーテリング力でジャンルの壁を悠々と超えてきた、エンタメ作家・高殿円氏。
「あっ、これは今、書かなあかんと思うものを書いてきた結果、一貫性のない作家みたいな感じになっています。作家性ってなんやろみたいな感じですね(笑)」
最新作『コスメの王様』では、明治大正期の神戸花隈を舞台に、一介の小僧から身を立て、東洋の化粧品王と呼ばれるまでになった山口県滝部村出身の〈永山利一〉の成功譚と、〈牛より安い〉値段で売られてきた兵庫県三田出身の少女〈ハナ〉の運命が交錯する。
利一には中山太陽堂(後のクラブコスメチックス社)初代社長で明治の化粧品業界における四大覇者の一人・中山太一という実在のモデルがおり、彼と架空の芸妓との交点に、港町神戸の賑わいや変遷が浮き彫りになるのも一興だ。
そんな今作の執筆動機も「今、書かな」。筆名を古の製鉄技法から付けたという彼女のモットーは、「鉄は、熱いうちに打て!」らしい。
「元々私は生まれも育ちも神戸っ子で、いつか神戸を小説にしたい、特に明治の開港後、一番イイ神戸を書きたいと思って、ずっと題材を探してはいたんですね。
以前『剣と紅』(2012年)で主人公にした井伊直虎が、その後、大河ドラマ(『おんな城主 直虎』)の主役になって、講演などで浜松によく呼ばれるようになったんです。そうしたら私が取材した当時は『直虎? 誰?』って感じだったのが、町中に幟が立ち、お饅頭まで売られてた(笑)。
そうか、自分の町がドラマになるとみんなが笑顔になるんや、神戸もそうなったらいいなあ、でもそんな題材が都合良く見つかるかなあと思っていた矢先でした。明治期に花隈で起業し、成功した中山太一さんを知ったのは」
幸運なことに、クラブコスメチックス社には歴代商品や広告を集めた文化資料室があり、学芸員までもがいた。
「しかも創業者をフィクションで書きたいという私の考えまでも許してくれて、なんか、今書けって言われた気がしたんです」
明治33年。花隈でも一、二を争う〈箕島楼〉の寮の裏手にそびえる〈大銀杏〉の下で、ドブに嵌った利一15歳を、おちょぼ時代のハナ12歳が助ける出会いからすべては始まる。その〈ドブから助けられた狸の子〉は意外にも綺麗な顔をしており、素性をあれこれ詮索する姐さん方は〈あの子、ちょっとおハナに似てた〉とも言ったのだった。