安倍晋三・元首相のメディアでの発言が増えている。2月27日、フジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』に出演し、ロシアのウクライナ侵攻に関連し、「核共有」を日本でも議論をすべきだという考えを示し、物議を醸した。その反響を受けて『週刊ダイヤモンド』3月26日号では、「ロシアの軍事侵攻を受けタブーなき議論が必要だ」と改めて持論を述べた。
積極的に評論家的な言動を行なう安倍氏に対し、メディアは元首相の発言として大々的に取り上げるものの、永田町の目は冷ややかだ。ベテラン政治ジャーナリストは言う。
「安倍さんの核共有については、議論する必要のある重要なテーマであることは確かです。しかし、だからこそなぜ、首相を退いて責任がなくなった今言い出したのか、という疑問が自民党内から上がっています。安倍さんは『今が政治的に議論できる状況だからだ』と言いますが、ロシアのウクライナ侵攻は安倍政権時代の2014年に起きたクリミア危機に端を発します。今回の侵攻はその時と地続きのことですから、なぜあの当時に核共有議論を首相だった安倍さんが提起しなかったのかという疑問が当然残ります。
また、核共有議論については大々的にぶち上げながら、自らが推し進めた北方領土の二島先行返還計画とそれに伴う経済協力に関する検証についてはほとんどなされた形跡がありません。『週刊ダイヤモンド』のインタビューでは3ページにわたってロシア問題を語りながら、あれだけ入れあげていた北方領土問題については一言も言及していない。これでは、痛いところについては口を噤んでいるとみられても仕方ありません」
安倍氏の言論活動については、かねて親交のある橋下徹・元大阪市長からの影響を指摘する声もある。自民党関係者が言う。
「フジの番組には橋下さんも出演し、核共有議論をめぐって意気投合していました。橋下さんは政界を引退以降、コメンテーターとして政治を盛り上げながら、古巣の維新の会を側面支援する役割を果たしています。橋下さんのやり方については賛否両論ありますが、安倍さんはそれに感化されているようにも見えます。
安倍さんが岸田政権への対抗意識から発言しているという見方もありますが、そうは思いたくありません。橋下さんのようにメディアで発言をしていくことで、政治への関心が高まり、岸田政権への側方支援になることを狙っている可能性がある。しかし、だとしても安倍さんは曲がりなりにも日本の政治に全責任を負った元首相で、かつ今も現職の国会議員です。橋下さんのように気楽に政治的発言をできる立場だとは思えません」