吉本興業が運営する吉本総合芸能学院、通称「NSC(ニュー・スター・クリエイション)」は、圧倒的多数の人気芸人を輩出してきたことで知られる。同学校の講師の一人が、お笑いコンビ・NON STYLEの石田明。M-1チャンピオンは、芸人を目指す生徒たちに何を伝えているのか。石田に話を聞いた。
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僕は、自分が「面白くない側の人間」だと思っています。漫才コンビのNON STYLEを結成する前、僕よりは余裕で面白い2人とトリオを組んで活動していたのですが、2人は芸人を続けず、今は僕だけが続けている。それは、面白いはずの2人が、ネタを作れなかったから。人物としては面白いのに、発想をネタに変えられなくて、消えてしまったんです。
結局、発想を人にちゃんと伝えられるネタへと変えられるよう、ロジカルに見たり、組み立て方を考えたりしてきたのが僕。NSCの大半の生徒よりも面白くない僕だからこそ、「この面白くないボケを、どうやって面白く見せるか?」と、表現の仕方にはこだわってきました。
だから、NSCで僕は単純にネタの「届け方」に特化して講師をしています。お笑いの根幹部分についての指導は、本当に面白い人であるパンクブーブーの佐藤哲夫さん、笑い飯の哲夫さんという講師たちにお任せです(笑)。
芸人を目指す前は、お笑いファンとして追っかけをしていました。お笑いのネタを観ながらずっとメモして家で見返したら、あるとき気づいたんです。「文字上では面白くないのに、生でネタを見たら面白い人がいる。なんでだろう?」と疑問に感じたのが原点ですね。そうそう、芸人を目指す人は、気になる先輩のネタを全部メモして、一度は完コピしてみてほしい。自分の欠点と先輩のすごさが自然と分かるんですよ。
また、もともと路上ライブをやっていたので、街の雑踏のなかで相手に伝わらないことへのジレンマも強くて。「どうやってお客さんに届けるか?」を追求していたら、僕なりの答えを見出せました。劇場ライブなら、お客さんは最初から最後まで観てくれるけど、路上は違いますからね。とはいえ劇場でも、ただ座っているだけで心を閉じている客だっています。それをどうやってこじ開けるか、も勝負どころです。
NSCで学ぶお笑いの技術は、コミュニケーションの一環。卒業後、もし芸人にならないとしても、絶対自分のプラスになる1年間を過ごせますよ。
【プロフィール】
石田明(いしだ・あきら)/NSC講師。井上裕介氏と結成したコンビ「NON STYLE」ではネタ作りを担当。M-1グランプリ2008優勝のほか、数々のコンクールで入賞を重ねる。2021年度から、NSC講師としてネタ見せ授業を担当。
取材・文/山本真紀 撮影/古川章
※週刊ポスト2022年4月1日号