2016年のNHK大河ドラマ『真田丸』は、三谷幸喜脚本らしいコミカルな人物描写も多い一方、平和なホームドラマ路線が主流となっていたその時期の大河では珍しく、策謀や暗殺などの血なまぐさい場面もスリリングに描かれていた。今回からは、『真田丸』の殺陣を担当した中川邦史朗氏にその秘話をうかがう。
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中川:監督やプロデューサーから最初に言われたのは、「今度の『真田丸』に関しては王道を行きたい。奇をてらった大河ドラマじゃなく、『独眼竜政宗』などのように重厚な『ザ・大河ドラマ』を」ということだったので、僕も自分が幼い頃に見ていた大河ドラマの記憶を思い返しながら殺陣を作りました。
──序盤などは暗殺場面もありました。ああした場面の手(一つ一つの動き)はどのように作られたのでしょう。
中川:場面の雰囲気はちゃんと台本上に書かれているので「三谷さんはこういうことをやりたいんだな」と汲み取って殺陣をつけたつもりです。ただ、放映時間が日曜の夜八時ですから、斬られた時に出る血の量はどれぐらいがいいかなど、そういう相談は現場レベルでやっていましたね。これだと多すぎるかな、でも全然出ないのはちょっとおかしい──とか。
手自体は奇をてらわず、割とシンプルです。人を殺す時は速くて小さな動きで。それでいて、観ている人にちゃんと伝わるように。そこのさじ加減だけで、その手自体はそんなに難しいことはしていないと思います。
──今、「さじ加減」とあっさり言われましたけど「速くて小さい動きだけど観ている人にちゃんと伝わるように」というのは簡単そうで難しいことにも思えます。
中川:最近の時代劇の立ち回りを観ていると、スピーディで疾走感はあるけれど、休まるところがないんですよね。だから観ている間は面白いんですが、終わると「いま、何をやっていたんだ」「どっちが斬られたんだっけ」と印象に残らないというのが僕の中にありました。
斬られるところ、刺されるところは観ている人に伝わるようにする必要があると思うんです。実際の剣術のリアルなスピードではなく「今、どこをやられました」ということを確実に伝えないと。
──リアクションで伝える、と。
中川:どれだけ速く斬っていても、いつの間にか人が倒れて、血が流れて「ああ、死んだんだ」では僕にとっては、面白味がありません。リアクションで伝える殺陣こそが昔の時代劇であり、「王道」なのではないかという気がしていました。