薬の「多剤併用」が社会問題になっているなか、それを解決するべく、患者と向き合っている病院がある。東京・品川にある昭和大学病院・附属東病院だ。取り組みの中心となっているのは、患者向けに開催される「おくすり減らすゾウ教室」である。
昭和大学病院の減薬教室は、2019年10月に始まったという。同病院薬剤部の嶋村弘史氏が、その経緯を説明する。
「多剤併用が問題視されるなか、当院の外来患者さんの処方薬を調べたところ、20種類以上の薬を処方されていた患者さんが多数いらっしゃいました。そこで処方薬の見直しやアドヒアランス(服薬遵守)向上を図るべきと考えた当時の病院長が、『ポリファーマシー対策チーム』を立ち上げたことが始まりです」
チームは病院長をトップに、病院薬剤師や大学薬学部からメンバーが招聘された。
「まず、当院の患者さんがどのような薬を何剤服用しているかを把握するところから始めました。対策チームが院外処方箋をもとに検討して、同じ薬効で重複処方されている薬について見直しを進めました」(嶋村氏)
具体的には、催眠鎮静薬、抗不安薬、解熱鎮痛消炎薬、胃腸薬、下剤などで同じ薬効の薬が重複していた場合、処方医に見直しを提案する文書を送ることを始めたという。同時に、患者に対して減薬を提案する取り組みを始め、多剤服用の問題点などの啓発を目的に減薬教室が発案された。
大学病院による減薬への取り組みは珍しいことだという。国際医療福祉大学病院内科学・予防医学センター教授の一石英一郎医師はこう評価する。
「他の大学病院でも多剤併用対策の必要性を訴えているところは少なくないですが、実際に薬剤師さんたちがチームを立ち上げて薬を減らす活動を行なっている例は聞いたことがなく、素晴らしい取り組みです」
減薬教室では、具体的にどんな指導がなされているのか。
「コロナ禍前は基本的に月1回第3月曜日の夕方、入院や外来の患者さんを対象に病院の食堂で開催していました。30分の講義と、薬剤師による個別相談30分です。講義では、高齢になるとなぜ薬が増え、減らすことが難しいのかをスライドで説明します。薬の種類が多くなることで生じる飲み合わせの問題や、飲み忘れのリスクについても説明します」(嶋村氏)
わかりやすく伝えるために、講義では事例をもとに説明するという。
「例えば13種類の薬を処方された患者さんが、飲み方が煩雑なため5種類を飲まなかったとします。ところが処方医はきちんと薬を服用している前提で診察をするため、数値が改善しないと薬が追加される。そうして多剤併用状態が進みますが、見直しによりこれを防ぐことができます」(嶋村氏)