単行本第1巻が話題沸騰中で3月30日に第2巻が発売されるマンガ『これを愛と呼ぶのなら』(作・都陽子)。ラブホテルを舞台に人間模様を描いた本作を、ラブホテルスタッフとしてリアルな現場を見続けた経験から、現在は恋愛相談やマンガ『ラブホの上野さん』の原作も手掛ける上野さんはどう読んだのか。
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私はラブホテルで働いて10年ほどになりますが、やはり場所が場所なだけに人間ドラマを目撃することも少なくありません。
「うちの旦那が浮気相手と201号室にいるはずだから部屋に入れて」と鬼電をする女性。週5で毎回別の女性とやってくる常連の男性。一般生活ではなかなか見ることができないような深い人間模様と出会うこともこの仕事の特徴の1つでしょう。
今回ご紹介する『これを愛と呼ぶのなら』は、まさに私が見てきたようなラブホテルにまつわる18本のエピソードが収録されております。
さて、今回は18本の中でも、私が最もオススメする1話をご紹介させていただきましょう。
第12話。君恵と雅樹の物語。
この話を一言で言ってしまえば同窓会で再会した雅樹と君恵がラブホテルに行くというただそれだけの話なのですが、その心の動きの描写が実に見事なのです。
特に着目していただきたいのが手の動きでしょう。
この話の序盤、君恵の手が描かれるときはいつも左手。そのため何度も彼女の結婚指輪が描かれております。
結婚指輪はまさに結婚の象徴。つまりこの時点で君恵は「既婚者」として描かれているのです。
それはセックスのときでも変わりません。雅樹に抱かれているときの君恵の指には、あからさまなほどに結婚指輪が描かれているのです。抱かれている最中であっても、自分は既婚者であり、これはよくないことであると彼女の脳裏にちらついているということを象徴しているのでしょう。
しかしセックスが終わり、君恵がシャワーを浴びている最中に雅樹が帰ってしまうと、状況は一変します。
ホテルの部屋に残された「先に帰ります」というメモ書き。その紙を掴むとき、君恵は初めて右手を使いました。
それではなぜ君恵はここで右手を使ったのか。それは「先に帰る」というメモを見て、君恵は雅樹が既婚者であると思い知らされたからに他なりません。待たせている家族でもいなければここまで慌てて帰る必要などないのですから。