ライフ

“ラブホの上野さん”が読む『これを愛と呼ぶのなら』 左手ばかりが描かれる理由

コロナ禍に開かれた中学の同窓会で、25年ぶりに再会。当時は手もつながないまま終わった2人だったが…

コロナ禍に開かれた中学の同窓会で、25年ぶりに再会した君恵と雅樹。当時は手もつながないまま終わった2人だったが…

 単行本第1巻が話題沸騰中で3月30日に第2巻が発売されるマンガ『これを愛と呼ぶのなら』(作・都陽子)。ラブホテルを舞台に人間模様を描いた本作を、ラブホテルスタッフとしてリアルな現場を見続けた経験から、現在は恋愛相談やマンガ『ラブホの上野さん』の原作も手掛ける上野さんはどう読んだのか。

 * * *
 私はラブホテルで働いて10年ほどになりますが、やはり場所が場所なだけに人間ドラマを目撃することも少なくありません。

「うちの旦那が浮気相手と201号室にいるはずだから部屋に入れて」と鬼電をする女性。週5で毎回別の女性とやってくる常連の男性。一般生活ではなかなか見ることができないような深い人間模様と出会うこともこの仕事の特徴の1つでしょう。

 今回ご紹介する『これを愛と呼ぶのなら』は、まさに私が見てきたようなラブホテルにまつわる18本のエピソードが収録されております。

 さて、今回は18本の中でも、私が最もオススメする1話をご紹介させていただきましょう。

 第12話。君恵と雅樹の物語。

 この話を一言で言ってしまえば同窓会で再会した雅樹と君恵がラブホテルに行くというただそれだけの話なのですが、その心の動きの描写が実に見事なのです。

 特に着目していただきたいのが手の動きでしょう。

 この話の序盤、君恵の手が描かれるときはいつも左手。そのため何度も彼女の結婚指輪が描かれております。

 結婚指輪はまさに結婚の象徴。つまりこの時点で君恵は「既婚者」として描かれているのです。

 それはセックスのときでも変わりません。雅樹に抱かれているときの君恵の指には、あからさまなほどに結婚指輪が描かれているのです。抱かれている最中であっても、自分は既婚者であり、これはよくないことであると彼女の脳裏にちらついているということを象徴しているのでしょう。

 しかしセックスが終わり、君恵がシャワーを浴びている最中に雅樹が帰ってしまうと、状況は一変します。

 ホテルの部屋に残された「先に帰ります」というメモ書き。その紙を掴むとき、君恵は初めて右手を使いました。

 それではなぜ君恵はここで右手を使ったのか。それは「先に帰る」というメモを見て、君恵は雅樹が既婚者であると思い知らされたからに他なりません。待たせている家族でもいなければここまで慌てて帰る必要などないのですから。

関連キーワード

関連記事

トピックス

同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
電動キックボードの違反を取り締まる警察官(時事通信フォト)
《電動キックボード普及でルール違反が横行》都内の路線バス運転手が”加害者となる恐怖”を告白「渋滞をすり抜け、”バスに当て逃げ”なんて日常的に起きている」
NEWSポストセブン
入場するとすぐに大屋根リングが(時事通信フォト)
興味がない自分が「万博に行ってきた!」という話にどう反応するか
NEWSポストセブン
過去の大谷翔平のバッティングデータを分析(時事通信フォト)
《ホームランは出ているけど…》大谷翔平のバッティングデータから浮かび上がる不安要素 「打球速度の減速」は“長尺バット”の影響か
週刊ポスト
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
初めて沖縄を訪問される愛子さま(2025年3月、神奈川・横浜市。撮影/JMPA)
【愛子さま、6月に初めての沖縄訪問】両陛下と宿泊を伴う公務での地方訪問は初 上皇ご夫妻が大事にされた“沖縄へ寄り添う姿勢”を令和に継承 
女性セブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で天皇皇后両陛下を出迎えた女優の藤原紀香(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
《天皇皇后両陛下を出迎え》藤原紀香、万博での白ワイドパンツ&着物スタイルで見せた「梨園の妻」としての凜とした姿 
NEWSポストセブン
“極度の肥満”であるマイケル・タンジ死刑囚のが執行された(米フロリダ州矯正局HPより)
《肥満を理由に死刑執行停止を要求》「骨付き豚肉、ベーコン、アイス…」ついに執行されたマイケル・タンジ死刑囚の“最期の晩餐”と“今際のことば”【米国で進む執行】
NEWSポストセブン
何が彼女を変えてしまったのか(Getty Images)
【広末涼子の歯車を狂わせた“芸能界の欲”】心身ともに疲弊した早大進学騒動、本来の自分ではなかった優等生イメージ、26年連れ添った事務所との別れ…広末ひとりの問題だったのか
週刊ポスト
2023年1月に放送スタートした「ぽかぽか」(オフィシャルサイトより)
フジテレビ『ぽかぽか』人気アイドルの大阪万博ライブが「開催中止」 番組で毎日特集していたのに…“まさか”の事態に現場はショック
NEWSポストセブン