森友学園への国有地払い下げをめぐる財務省の公文書改竄問題で自殺した近畿財務局職員の赤木俊夫さん(享年54)。その日常を演劇のかたちで描き出す一人芝居の作品『全体の奉仕者』が、東京・六本木のギャラリー「ANB Tokyo」で4月1日から上演される(入場は無料)。俊夫さんの遺書を2018年にスクープしたジャーナリストの相澤冬樹氏がこの舞台について解説する。
* * *
事件として広く知られるところとなった「改竄をめぐる出来事」ではなく、改竄前の「穏やかで幸せな暮らしの一コマ」を演劇として再現することで、妻の赤木雅子さん(51)の大切な人としてそこにいた俊夫さんを取り戻したい――。当時そこに存在し、今は失われてしまったものが何なのかを、見る人に感じ取ってもらうことで、これが自分にも起こりうることなのだと気づいてもらおうという狙いを感じた。
舞台のタイトルは「全体の奉仕者」。これは亡き赤木俊夫さんが肌身離さず持ち歩いていた「国家公務員倫理カード」の冒頭に記されている「国民全体の奉仕者であることを自覚し、公正な職務執行に当たらなければならない」という文言から取った。「私の雇用主は日本国民なんです」と口にしていた俊夫さんをモチーフにした舞台にふさわしいタイトルではないか。
若手俳優の心を動かした“認諾”
この一人芝居を演じるのは、俳優でアーティストの筒(tsu-tsu)さん(25)だ。実在の人物について取材し、役作りをし、その人物になりきって一人で演技し、その過程を振り返る一連の流れを「ドキュメンタリーアクティング」と名付けて取り組んできた。これまでに、事故で亡くなった友人が偶然残していた音源を元にその友人を演じたり、自分と同じ生年月日の人物を探してインタビューし、演じたりしてきたという。
筒さんが、赤木俊夫さんを取り上げようと考えたのは、妻の雅子さんと友人の紹介で出会ったことがきっかけだった。雅子さんは、夫の命を奪った改竄事件がなぜ起きたのか真実が知りたいと、2年前の3月、国などを相手に裁判を起こした。筒さんは、雅子さんが背負い続けてきた思いをそばで感じてきた。ところが去年12月、“認諾(にんだく)”という法律上の手続きで国に無理やり裁判を終わらされてしまった。その不本意な結末を目の当たりにしたことで、今回の作品の発表を考え始めたという。