3月半ばの東京・新宿の歌舞伎町。多くの女性客でにぎわうとあるホストクラブに22時頃、数名の男性客が続々入店してきた。
「最初は女友達に連れられて来たんですけど、そこから妙にハマっちゃって。今ではひとりでとか、二次会として男ふたりで行くこともあります」
そう語るのは今年社会人3年目だというA氏。「女が癒しと夢を買う場所」としてのイメージが強いホストクラブだが、驚くことに最近は男性客からの需要もあるという。
「キャバクラとかは苦手で、こっちが気を遣うし、女の子からの褒め言葉なんてどうせ営業トークだろと斜にかまえてしまって。でもホストクラブで男に褒められるのは、スッと受け入れられたんですよね。結局同性に評価されるのが一番心が満たされる」(A氏)
会社の先輩からのパワハラ・セクハラが最近の悩みの種だというA氏は、その愚痴をホストにこぼすこともしばしばだ。
「ホストクラブも男社会で競っているから、愚痴を共有できるところがあって。うまい対処法を教えてもらうこともあります。ホストの男とは住む世界が違うと思っていましたが、こんなに同じ悩みを共有できるとは思いませんでした」(A氏)
ホスト歴10年を誇り、同業者からサラリーマンまで数々の男性客を接客してきたB氏はこう語る。
「男性だけで来ることも、女の子を連れてくることもありますね。女の子を落としたいときに、ホストクラブに来て俺たちホストが男性を持ち上げて、女の子からの好感度を上げたりとか。『男にモテる男はカッコイイ』って価値観は男女ともにあると思います」
ホスト社会でも、そうした「男にモテるホスト」が出世していくそうだ。
「ホストとして成功するには女に対する接客以上にホスト同士の男社会で支持されることが大事。業績があっても人望がなければ幹部になれないんです。だから売れっ子は男性客のツボを押さえるのがうまい」(B氏)
ホストクラブの知見を仕事に生かす男性客もいるという。
「初対面の人との会話術を学びたい、と営業に転職した方から指名をいただいたことがあります。一緒に飲んで色々アドバイスしたらその2か月後にひとりで来てくれて。おかげで営業成績伸びたよ、とシャンパンを入れてくれました」(同前)
キャバクラでなくホストに通う──そんな男性の姿が当たり前になるのも、そう遠くない未来かもしれない。
取材・文/佐々木チワワ(ライター)
※週刊ポスト2022年4月8・15日号