アメリカ当局の昨年6月の「UFO調査報告」開示以来、再び注目が集まっているUFO問題。大戦後、冷戦時代を通じて米ソ両国はUFO問題の解明を軍事上の課題と捉え、調査を続けていた。
1980年代後半、米ソの雪解けムードが高まると、「軍事機密」扱いだった両国のUFO関連情報が、次々とリークされるようになった。とりわけ耳目を集めたのが、1987年に米国で暴露された「MJ-12」文書の存在だ。
1947年のいわゆる“ロズウェル事件”(米・ニューメキシコ州にUFOが墜落、異星人の死体が回収されたとみられる事件)の後、米・トルーマン大統領が設置した極秘委員会(MJ-12=マジェスティック・トゥエルブ)の記録とされ、数千ページの文書には「米政府と宇宙人の密約」に関する詳述など、センセーショナルな内容が記されている。
もっとも、1952年に作成されたとされる同文書の存在を米政府は認めていない。公開したのは、「謎の人物から文書のコピーを受け取った」と主張する米国のテレビマンで、その真偽について論争が絶えなかった。後に、文書にあるトルーマン大統領の署名が別の文書からの複写だったこと、使用されたタイプライターが1960年代に製造されたものだったこと、大統領令のシリアルナンバーが通常使用されるものと異なることなどが判明し、今日では「MJ-12」文書の偽造説が濃厚だ。
ただし、誰が何の目的で数千ページもの精巧な“ニセ文書”を作ったのかなど、未だに不可解な点も残されている。
1989年には、ネバダ州の米軍施設「エリア51」で地球製UFOの開発に従事していたと主張する科学者、ボブ・ラザー博士のカミングアウトが大きな話題となった。「米政府は密約によりエイリアンのテクノロジーを獲得。地球製UFOを開発し、試験飛行を行なっている」──博士の証言は「MJ-12」文書に記された内容と一致。世界に衝撃を与えた。直後、博士は経歴詐称疑惑などを報じられ、長らく表舞台から姿を消すことになった。
現在では、空軍偵察機やステルス機の試験飛行場として存在が公になっているエリア51。UFO・異星人問題とはまったく無縁なのか。UFO問題に詳しい科学ジャーナリスト・高野誠鮮氏が語る。
「かつて、仏国立宇宙研究センター(CNES)のユーベル・キュリアン総裁にUFO現象調査機関設置の動機を訊くと、『UFO情報を米国に独占されたくないから』と明言した。冷戦下で、UFO問題はシビアな課題だったのです」
米政府はUFO問題を巧みに利用し、軍事機密の漏洩阻止に腐心していたのかもしれない。
※週刊ポスト2022年5月6・13日号