“おバカキャラ”で『笑点』の大喜利コーナーを沸かせる落語家・林家木久扇(84)。「バカになるほど愛される」という人生の本質を見つけた木久扇が、その生き方をまとめたエッセイ『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)を3月に上梓した。それを記念し、木久扇の「バカの魅力」を知る旧知の俳優でタレントの毒蝮三太夫(85)との対談が実現。偉大なるバカの先達から人生が楽になる秘訣まで、存分に語り合った。【全3回の第3回。第1回から読む】
* * *
毒蝮:木久ちゃんの本を読んで、バカになることは楽しく生きるスタートなんだとわかったよ。漫画家になろうとして清水崑先生の書生になったら、いつの間にか落語家になっちゃった。バカな失敗もいっぱいしてる。
木久扇:バカって得なんですよ。たとえばですけど、落語会が終わると、主催者が出演者に花束をくれたりする。でも、ぼくは係の人に「花じゃなくて、お米をわたしてください」って頼むんです。ひとりお米をもらっているとウケるんです。しかも食べられる。
毒蝮:普通だったら「お米なんてあげたら失礼なんじゃないかな」って心配になる。だけど、木久ちゃんなら大丈夫だ。
木久扇:「あの人ならしょうがない」と思ってもらえる。バカになるといろんなことが許されます。自分も楽だし、まわりだって助かる。
毒蝮:バカがいると、ホッとするしね。「あれでいいんだ」って、世の中に希望が持てる。バカは世の為人の為でもあるわけだ。だけど木久ちゃんの言うバカは、本当のバカにはできないよね。木久ちゃんだって、多少はバカかもしれないけど、全部はバカじゃない。
木久扇:最近は、どんどんバカのほうに移行しつつありますけどね。はっと気がついて、あわてて戻ったりしてます。
毒蝮:俺たちもそれなりの年齢になったけど、木久ちゃんは、引き際なんて考えたことある?
木久扇:ぼくは仕事の依頼があると、どんどん予定を入れちゃう。約束すると「そこまでは生きなきゃ」と思うんです。体が動く限りは、それを続けていくのかな。
毒蝮:俺もそうだな。カミさんは「いいかげんリタイアして、のんびりすれば」って言うけど、必要とされているうちはがんばりたいからね。
木久扇:世間では「終活」って言葉が流行ってますけど、せっかく生きてるのに、死ぬ時のことを考えて準備をするなんてもったいない。ぼくはそう思うんですよね。「余生」って言葉も、ぜんぜんピンときません。
毒蝮:余生はピンとこなくても、寄席はしょっちゅう出てるけどね。
木久扇:いい締めだ!
(了。第1回から読む)
【聞き手・構成】
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)/1963年、三重県生まれ。コラムニスト。『大人養成講座』『大人力検定』など著書多数。林家木久扇著『バカのすすめ』の構成を担当した。
※週刊ポスト2022年4月8・15日号