ロシア軍によるウクライナへの侵攻が始まって約1か月半が経過した。当初、ロシアが目的としていた首都キーウ(キエフ)への進軍はウクライナ軍の善戦により停滞。ロシアは「東部の解放に集中する」と方針を転換し、4月2日にはキーウからの撤退が確認された。だがウクライナにとって手放しで喜べる状況ではない。キーウ近郊から侵略者が去ったことで、ロシア兵による民間人への残忍な行為が明るみになり始めている。
4月3日、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、ロシア軍が占拠したウクライナ国内の一部地域で、民間人に対する性的暴行や処刑が行われていたとする報告書を『ウクライナ:ロシア支配地域の明白な戦争犯罪』とのタイトルで公開した。
ウクライナのゼレンスキー大統領(44才)もビデオメッセージで、後ろ手に縛られたうえ頭部を切断された遺体や、拷問され殺害された子供の遺体が多数見つかったこと、さらにはロシア兵による女性への性暴力が相次いでいることを強い怒りとともに明かした。
それだけではない。同日、ウクライナ国防省がキーウから約20kmの幹線道路上に放置された4〜5人の女性の遺体の写真をツイッター上に公開。全裸のまま毛布をかけられていたといい、ロシア兵による性暴力の疑いがもたれている。同省は、ロシア兵が遺体を焼却して証拠の隠ぺいを図ろうとしていたと糾弾した。
EU評議会のウクライナ代表で、同国の女性国会議員でもあるマリア・メゼンツェワ氏も、イギリスのニュース番組で残虐行為の実態を明らかにした。同氏は「ロシア兵に夫を射殺された女性が、未成年のわが子の前で何度もレイプされた」と悲惨な現状を訴えた。レシア・ヴァシレンコ議員も、「戦闘が続く中で、女性や10才にも満たない少女が、ロシア兵にレイプされ、拷問され、殺された」と主張した。
性暴力被害者のインタビューも次々と報じられている。ウクライナ保安局が傍受したロシア兵とその家族との通話には「16才の少女を仲間がレイプした」という内容が含まれていたといい、ロシア兵による民間人への性暴力が常態化していると指摘する専門家もいる。
ロシアがかかわった戦争では過去にもロシア兵による性暴力被害が報告されてきた。1994年から2度にわたったチェチェン紛争や、ロシアが介入したシリア内戦(アレッポの戦い2012〜2016年)、ウクライナ国内での親ロシア派と政府軍の戦いなどでも市民への性暴力被害が報告された。
今回のウクライナ紛争では、ロシア兵による性暴力が増加している可能性もあるという。プーチン研究の第一人者で筑波大学教授の中村逸郎さんはこんな指摘をする。
「2017年にプーチン氏は、ロシア国内で“平手打ち法”を制定しました。これは、“夫や妻がパートナーに対して暴力を振るっても入院しなければ刑事罰に当たらない”という法律です。男女の差はないものの、実際は男性から女性への暴力を容認するものだとみられています。
ロシアではこの法律が成立する以前から、女性が夫やパートナーの暴力で亡くなることが問題視されていました。現在ではさらに被害が広がっている可能性もある。ロシア兵のレイプの背景にはロシアの世相も関係しているのです」