コロナ禍が長引く中、ウクライナへの軍事侵攻や宮城県・福島県・岩手県などでの地震の報が相次ぎ、私たちの心持ちが不安定になりがちだ。そうしたときには「自分の内なる声を聞く」ことが大事で、そのキーワードとなるのが「内受容感覚」なのだという。誰もが持つというその感覚は一体、どんなものなのか。
「まず、皆さんよくご存じの、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚は外受容感覚といいます。それに対して、内受容感覚は、お腹が空いた、体がかゆい、心臓がドキドキする、胃がムカムカするといった、体の内側で起こる感覚のことをいいます。
いずれも100年くらい前からある言葉ですが、内受容感覚が科学的に多く研究され始めたのは比較的最近です」
慶應義塾大学文学部心理学専攻の教授・皆川泰代さんはそう説明する。
「最近注目され始めたのは、内受容感覚と脳の関係性です。昔から論争はありましたが、人間は脳に感情が伝わる前に、体が先に反応するという考えがいまの主流です。
悲しいことがあったとき、『脳が“悲しい”と感じて涙が出る』と思いがちですが、実は逆。先に涙が出て、それが脳に伝わって悲しいと感じるのです。つまり、体の中で起きた異変を脳が察知して、悲しい、怖い、つらいなどの感情が起こる。これが内受容感覚が感情に深く関係する理由です」(皆川さん・以下同)
内受容感覚を正確に察知できる人と、そうでない人がいることもわかっている。
「自分の体には一切触れずに、1分間の心拍数がどれくらいかを正確に測れる人は内受容感覚が正確とされています」
この心拍数の速さが心理的な影響を及ぼすともいわれている。
「一般的に心拍数が速いと緊張状態にあり、遅いとリラックス状態にあるといわれています。
昨年の夏、私たちの研究チームはある実験を行いました。それは、人前でスピーチを行うような場面で、自分の心拍より遅い“擬似心拍刺激”を、スマートウォッチを通して与えたグループと与えなかったグループでは、緊張状態がどう異なるかを心電図で計測する実験です。すると、擬似心拍刺激を与えたグループは内受容感覚が正確な人ほど緊張が緩和されることがわかりました。一方、擬似心拍刺激を与えなかったグループは、内受容感覚が正確な人ほどストレス反応が大きかったのです。
これらの結果から、内受容感覚が正確な人は、自分の感情を客観的に把握でき、不安な感情を制御できるのではないかとも考えられています」
ただし、内受容感覚が正確であることは、必ずしもいいわけではない。
「正確すぎると、ちょっとした心拍数などの変化にも不安を感じてしまい、かえってストレスになります。常に気持ちが落ち着くようにコントロールできることが理想です。それには、マインドフルネスが有効と考えられています」
マインドフルネスとは過去や先のことにとらわれず、いまの自分の心に目を向けることをいい、これには瞑想やヨガなどが有効的。これについては脳内科医の加藤俊徳さんが次のように説明する。