自分の体が不調のサインを出していても、騙し騙し過ごせるのは若いうちだけ。歳をとって身体機能が全体的に低下すると、不調サインは病へと進んでいく。やっかいなのは、自分で病の重篤さに気づけないことだ。
とくに耳で起きる病気は、不快感が大きいわりに「命に別状はないだろう」「そのうちなんとかなる」と軽視しがち。だが、五感に関わる病気は確実にQOL(生活の質)を落とし、次なる病を連鎖的に引き起こす可能性が高い。耳の代表的な病気である「耳鳴り」について解説する。
川越耳科学クリニック院長で埼玉医科大学客員教授の坂田英明氏によると、耳鳴りは、実際には鳴っていない「キーン」「ジー」といった音が 耳から離れない状態。耳の機能が低下し、脳でノイズを 拾ってしまうことによる難聴の一種だという。
誰もが経験済み内耳からくる耳鳴り
耳鳴り未経験者は、この世の中にほぼ存在しない。静かな環境では「シーン」という音を感じ、疲れたときにだけ「キーン」と高音が聞こえてくるのは、一般的な耳鳴りである。ただ、常に「ジージー」「キーン」といった音が耳から離れない場合、対策を講じる必要が出てくる。坂田氏は語る。
「内耳が機能している人なら、聴力を失った状態でも耳鳴りは起こるもの。だから、耳鳴りが完全にゼロになる状態はありえません。とはいえ、耳鳴りで悩んでいる人は、気にせず生活できるレベルまでの改善が望めます」
急激な改善は難しいが、苦痛を取り除くステップを少しずつ踏んでいきたい。
ケアをあきらめず認知機能低下を防ぐ
ときに「耳鳴りは治らない病気だから、あきらめなさい」と言う医師もいるが、前出・坂田氏はこう提唱する。
「あきらめることなく、耳鳴りのボリュームを下げる努力をするべきです」
耳鳴りは、食生活や運動で9割程度まで抑えられる可能性があるというのだから心強い。逆に、中年期の耳鳴りを放置した結果、「難聴悪化と認知症が同時発症」「難聴によるコミュニケーション障害で認知機能低下」となる場合もある。 なお、耳でなく脳に起因する耳鳴り(頭鳴り)もあり、そちらは腫瘍や脳過敏が疑われる。耳にいい生活を送ってから1か月ほど経っても改善されなければ、病院へ行こう。
取材・文/山本真紀
※週刊ポスト2022年4月22日号